最近のオススメ(記事へは左のリストからどうぞ)

2010/09/09

「子どもたちは夜と遊ぶ(上)」@辻村深月

「子どもたちは夜と遊ぶ(上)」@辻村深月 (2008/05刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベース より)
大学受験間近の高校三年生が行方不明になった。家出か事件か。世間が騒ぐ中、木村浅葱だけはその真相を知っていた。「『i』はとてもうまくやった。さあ、次は、俺の番―」。姿の見えない『i』に会うために、ゲームを始める浅葱。孤独の闇に支配された子どもたちが招く事件は、さらなる悲劇を呼んでいく。


【一言抜き出すなら】
彼女を殺した犯人が、泣き出しそうな気持ちで彼女の首を絞めていたことを知らないだろう?

【感想】
「ぼくのメジャースプーン」、「冷たい校舎の時は止まる」を既読の上、3作品目です。
まだ上巻しか読んでいません。
今後のストーリー展開に関して、いくらか分かりやすい伏線は引かれているのでミステリとしては物足りなく、また、おどろおどろしい殺人現場のわりに、感情描写や情景描写が今一つで、『見立て殺人』、『情報クラッキング』、『小児虐待』などの旬のキーワードを散りばめている割に、社会派の薫りも薄い。
そういう意見を聞くこともありますが、そうるは、辻村先生の独特の空気感が好きでついつい読んでしまいます。
恩田陸ほど強烈ではないけれど、東野圭吾ほど分かりやすいわけでもない。
現実世界を舞台としているけれど、キャラ設定とかストーリー展開とか、どこかに少しだけ、なんとなくお伽噺的な要素が溶かされている感じ。

図書館で予約待ちなんです。早く下巻が読みたいよー

(88点.期待の高得点!!)


応援お願いします!
人気ブログランキングへ

2010/09/08

「今はもうない」@森博嗣 

「今はもうない」@森博嗣 (2001/03刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベース より)
避暑地にある別荘で、美人姉妹が隣り合わせた部屋で一人ずつ死体となって発見された。二つの部屋は、映写室と鑑賞室で、いずれも密室状態。遺体が発見されたときスクリーンには、まだ映画が…。おりしも嵐が襲い、電話さえ通じなくなる。S&Mシリーズナンバーワンに挙げる声も多い清冽な森ミステリィ。


【一言抜き出すなら】
言葉にはしなかったのではないかしら?

【感想】

驚いた…
森先生の作品(特にS&MとV)は頻繁に読んでいるので、犯人は当てられないまでも、たまげるようなラストが来ることもないだろうとたかをくくっていただけに、完全にしてやられました。
密室がどう、犯人がどう、動機がどう、などというミステリなら着目せざるをえないところをしっかり書きこみつつ、もっと小説として初歩的な、「読み物としての仕掛け」で騙された。
くそー、してやられた。

森ミステリィだな、って思う。
こうやって、「自分が物語を書いている」(語っているのではなくあくまで「書いている」)ことを客観的に自覚しながら書いていることが分かるからこそ、森先生の作品と作者の絶妙な距離感が堪らなく病みつきにさせるんだと思う。
それなりに小説を読んできた人だけが森先生にはまるのでは、と勝手に考察してみたり。

(88点.人生の一冊ではなくても珠玉の一冊。)


応援お願いします!
人気ブログランキングへ

2010/09/05

「バベルの薫り(上・下)」@野阿梓

「バベルの薫り(上・下)」@野阿梓(1995/06刊)
バベルの薫り〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)
バベルの薫り〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)
【あらすじ】(「BOOK」データベース より)
22世紀、スペース・コロニーと月面では、日本、アメリカ、ハノイ連邦とが覇権を競っていた。人工衛星都市ミマナの心霊科学研究所に勤務する稀代の霊能者・姉川孤悲は心霊コンピュータISMO 2の稼動に成功する。が、その時、日本列島の一点から異様な霊気が発せられるのを感知した。これを「国体」の危機とした日本政府は孤悲に全権を託し、少年・林譲次と共に疑惑の学園都市・井光へ派遣したのだが…近未来SF巨篇。


【一言抜き出すなら】
---

【感想】
平日にちっとも読み進まなかったので、土日を利用してなんとか読み終わりました。
「疲れた…」というのが第一声。
SFというのは、どうしても読者はおいてきぼりになってしまうものなのかもしれませんが、このお話は、舞台設定中の技術や常識だけではなく、過去のものとして語られる現在(読んでいる私にとっての現在)や過去を語る時ですら、独りよがり的な解説と共にどんどんと私を置いていってしまうので、入り込むことができずにすぐに集中力が切れてしまいました。
そして、その置いてけぼり具合ばかりが目に付いてしまって、キャラの性格や魅力までなかなか思いやることができなかった…
結構な巨編なだけに残念です。
終わり方も、其処まで持って行く舞台の盛り上げ方も見事だと思っただけに、SFにこだわらなければ素敵な話が書けるのでは、といらぬお節介まで思ってみたり。
ともかく、上下一緒の感想です。(それだけ身が入っていないとも言う。。。)

(62点.孤悲、と書いて「こい」と読む主人公の名前は確かに魅力的。)




応援お願いします!
人気ブログランキングへ

2010/09/04

2010年8月のベストワン

 8月は、図書館からの拝借6冊でした。
 本当はもっと読んだのですが、例に漏れず更新し損ねたので、投稿月で計算することにして9月分に持ちこします!
下の本をベストワンに選びましたが、何気に「楊貴妃伝」も捨てがたかったです。中国史なんて全部忘れたのに、当時のロマンさも虚しさも全部ひっくるめて楊貴妃がとても素敵でした。
6冊しか読んでないことを考えたら、豊作な月だった… 

★2010年8月のベストワン★
「遥かなり神々の座」@谷甲州 (1995/4刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベースより)
マナスル登頂を目指す登山隊の隊長になってくれ、さもなくば―得体の知れない男から脅迫され、登山家の滝沢はやむなく仕事を請け負った。が、出発した登山隊はどこか不自然だった。実は彼らは偽装したチベット・ゲリラの部隊だったのだ。しかも部隊の全員が銃で武装している。彼らの真の目的は何なのか。厳寒のヒマラヤを舞台に展開する陰謀、裏切り、そして壮絶な逃避行―迫真の筆致で描く、山岳冒険小説の傑作。


【感想】
90点付けさせていただきました…
個人的には山登りもしないし、テロに詳しいわけでもないし、軍隊とか戦争ものの小説を好んで読むわけでもないのですが。

そういった、そうるというドシロートに対して、このお話は、山登り(それも地球で一番過酷なヒマラヤ登山)の魅力を文字だけで虜にするほど語ってくれました。
雪の白さ、山のつらさ、寒さ、そして山頂からの雲海の見事さ、陽の光の素晴らしさ…

そしてそれだけではなく、テロ組織に狙われた主人公の心を通して、命の大切さ、国という組織のとてつもない大ききと非道さを教えてくれました。

そして最後に、たったひとりの人間に、できることの大きさも。

人は、とてつもなくちっぽけで弱い。
けれど同時に、想像以上に強くて、たくましい。

息つく間もなく読んでいる間、幸せでした。


応援お願いします!
人気ブログランキングへ

「海猫(下)」@谷村志穂

「海猫(下)」@谷村志穂 (2004/08刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベース より)
広次と薫の恋は、壮絶な結末を迎えた。それから十八年後、薫の愛したふたりの娘は、美しい姉妹へと成長していた。美輝は北海道大学に入学し、正義感の強い修介と出会う。函館で祖母と暮す美哉は、愛してはいけない男への片想いに苦しむ。母は許されぬ恋にすべてを懸けた。翳を胸に宿して成長した娘たちもまた、運命の男を探し求めるのだった。女三代の愛を描く大河小説、完結篇。島清恋愛文学賞受賞作。


【一言抜き出すなら】
---

【感想】
あっという間に衝撃の結末を迎えた薫の恋。

えっ?!と思っていたところに、その薫の決着が波紋を広げ、薫の母タミと、薫の二人の娘美輝と美哉に大きな影と影響を広げていく過程が丁寧に描かれていきます。

上巻ほどの、切羽詰まった恋愛とか、人を殺しかねないおどろおどろしさや、特定の人を決めてしまった狂気のようなものは感じられません。
けれど対照的に、3人の女たちが薫を鏡にしながら自分を省みつつ、それぞれの道を歩いていく姿に、「家族」というものを強く感じました。

自分は、どう歩くか。
悩みつつ、母や祖母の行く末を自分なりに消化して、その上で娘たちも自分の道を歩く。

普通、主人公の物語が終わってしまって、その後を描く話は尻すぼみ的な感じがするものですが、このお話は引き続き深く考えさせられるものがあり、恋愛から、自己や自我、女というものまで視野広く素敵な世界を見せていただきました。

ほんっとうに、ありがとうございました。

(95点.やはり、自分のことは自分しか決められない。)


応援お願いします!
人気ブログランキングへ

「海猫(上)」@谷村志穂

「海猫(上)」@谷村志穂 (2004/08刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベース より)
女は、冬の峠を越えて嫁いできた。華やかな函館から、昆布漁を営む南茅部へ。白雪のような美しさゆえ、周囲から孤立して生きてきた、薫。夫の邦一に身も心も包まれ、彼女は漁村に馴染んでゆく。だが、移ろう時の中で、荒ぶる夫とは対照的な義弟広次の、まっすぐな気持に惹かれてゆくのだった―。風雪に逆らうかのように、人びとは恋の炎にその身を焦がす。島清恋愛文学賞受賞作。


【一言抜き出すなら】
---

【感想】
この人を好きになる。
この人と一生を生きて、この人の村に一緒に埋まって、私は私だけの故郷を作るのだ…

ロシアとの混血に生まれた薫の、その決意は確かに一世一代のもので、絶対に嘘ではなかった。薫は真面目な子だったし、女一人で漁村に嫁ぐ覚悟は生半可なものではない。

なのに。

その旦那のことを、薫は「愛して」はいないことを思い知らされる。

他の誰でもない、旦那の弟を「愛して」いる自分を知ってしまうから。

なんてこったー!! な話です。一昔前の北海道の漁村に、混血の女が嫁ぎに来るというビッグニュース。そして、その中で不貞を働くというスキャンダル。

気丈な薫が、最終的にどんな道を取るのか。薫の故郷はどこにあるのか。

下巻が楽しみすぎる話です。。。

(92点.波・乱・万・丈!)



応援お願いします!
人気ブログランキングへ

「BAD KIDS」@村山由佳

「BAD KIDS」@村山由佳 (1997/06刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベース より)
20歳も年上のカメラマンとの関係に苦悩する都は高校の写真部長。彼女が絶好の被写体と狙いをつけた隆之は、ラグビー部の同性のチームメイトに秘かな恋心を抱いていた。傷つき悩みながら、互いにいたわりあうふたり。やがて、それぞれに決断の時を迎える。愛に悩み、性に惑いながらもひたむきに生きる18歳の、等身大の青春像をみずみずしいタッチで描く長編小説。


【一言抜き出すなら】
挫折って、たとえばどんなふうにですか?

【感想】
高校生。
どんな道でも選べるとき。
どの道が正しいのか分からない時。

なんだかうまく感想が言えませんが、何を選んでも、外から見ただけでは、それを良いとも悪いとも絶対に決めつけられないのだ、ということを改めて教えられました。

「そんな道を選ぶんじゃない。必ず失敗して、とんでもない挫折を味わうことになる。そうなってしまった生徒を先生は何人も見てきたんだ」
みたいなことを言われた後の、都の返しが最高にかっこいい。

「挫折って、たとえばどんなふうにですか? 詳しく教えていただかないと、なにしろ私は未熟なので分からないんです」

知らないことは、悪いことじゃない。精一杯やることが、自分の持てるものを信じて我武者羅になることが、なにより大切なのだ!!!

(85点.あたたかい話だった。)


応援お願いします!
人気ブログランキングへ

「翼 cry for the moon」@村山由佳

「翼 cry for the moon」@村山由佳 (2002/06刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベース より)
父の自殺、学校での苛め、母には徹底的に拒まれて…。N.Y.大学の学生、篠崎真冬は心に深い傷を抱えて生きてきた。恋人、ラリーの幼い息子ティムも、実の母親から虐待を受けて育った子供だった。自分の居場所を求めて模索し幸せを掴みかけたその時、真冬にさらなる過酷な運命が襲いかかる。舞台は広大なアリゾナの地へ。傷ついた魂は再び羽ばたくことができるのか。自由と再生を求める感動長編。


【一言抜き出すなら】
こんなふうに考えること自体が傲慢さとすれすれだという気がするからだ。

【感想】
これでもか、これでもか、と不幸が訪れる主人公、真冬。
その中で、ぐれず、真摯に、真面目に、なんとしてでも自力で全てを超えて、自分だけの安らぎの地を見つけようとする物語です。

こんなに不幸に見舞われるのは絶対にイヤだけど、その中で、こういう風に生きていけたらいいなぁと思う、真冬は私の一つの理想の形です。

必死に生きるって大切だよなあと思う。こういう話を読むたびに。
適当に生きているつもりは無いけれど、でもこういう物語の主人公みたいに必死に生きているかと聞かれたら、絶対に答えはNOだ。

(87点.こうやって人を大切にする人になりたい。)


応援お願いします!
人気ブログランキングへ

「マンゴー・レイン」@馳 星周

「マンゴー・レイン」@馳 星周 (2003/11刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベース より)
タイ生まれの日本人、十河将人。彼はバンコクで再会した幼馴染から、中国人の女をシンガポールに連れ出す仕事を引き受ける。法外な報酬に、簡単な仕事。おいしい話の筈だった。だが、その女と接触した途端、何者かの襲撃を受け始める。どうやら女が持つ仏像に秘密が隠されているらしい―。張り巡らされた無数の罠、交錯する愛憎。神の都バンコクで出会った男と女の行き着く果ては。至高のアジアン・ノワール。


【一言抜き出すなら】
七十年以上生きてきたが、これだけ振り回されたのはわたしも初めてだ。明日のない者のやけっぱちの活力を過小評価したせいかな。

【感想】
タイのバンコクには一回だけ行ったことがありますが、このお話の舞台になるような、魅力的な街だとは知りませんでした。
暴力と嘘と貧困と差別とクスリと性に満ちた場所。
その中から、なんとしてでも逃げ出してやろうとする美人娼婦がものすごい存在感を放っています。彼女が主人公でしょ!って感じ。

恋とか愛に似たものが何度も駆け巡るのに、結局何よりも、彼女が欲しかったのは未来と自由で。こんなにも自分を憂い、未来を欲し、富を夢見るのは人間の性なんかなって思いました。
最後の最後に、全員裏切ったしな…

(85点.女ってこわい!)


応援お願いします!
人気ブログランキングへ

「魔剣天翔 Cockpit on Knife Edge」@森博嗣

「魔剣天翔 Cockpit on Knife Edge」@森博嗣 (2003/11刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベース より)
アクロバット飛行中の二人乗り航空機。高空に浮ぶその完全密室で起こった殺人。エンジェル・マヌーヴァと呼ばれる宝剣をめぐって、会場を訪れた保呂草と無料招待券につられた阿漕荘の面々は不可思議な事件に巻き込まれてしまう。悲劇の宝剣と最高難度の密室トリックの謎を瀬在丸紅子が鮮やかに触き明かす。


【一言抜き出すなら】
私が影響を与えたもの。私が影響を受けるものではありません。

【感想】
森さんです。著作が多すぎて、まったく読破できる気がしません。
 S&MシリーズもVシリーズもそうなんですが、私、刊行順に読んでいないので、登場人物の距離感が毎回毎回違うので戸惑います。なんだかんだ言って、メインとなる登場人物の心理的距離も巧く描いているんだなあとしみじみします。
 もう少し読んだら、全著作リストを引っ張り出してきて、どれくらい読んだか印をつけたいです。

 さて、今作から抜き出した一言は、母が娘を評して、また一人の女が自分の絵画作品を評した言葉です。
 強く強くあらなければ生きていけない不遇の身だとしても(自分はそんなこと思っていないでしょうけれど)、けれど自分の周りを見てそう言いきれてしまうのは、強さより寂しさなんじゃないかと思いました。
 もうこの世に、自分を変えられるものは何もない寂しさ。

 …想像もできませんけれど。

(83点.いつも新しい発見をくれる人)


応援お願いします!
人気ブログランキングへ

「太陽の塔」@森見 登美彦 

「太陽の塔」@森見 登美彦 (2006/05刊)
【あらすじ】(アマゾン より)
京大5回生の森本は「研究」と称して自分を振った女の子の後を日々つけ回していた。男臭い妄想の世界にどっぷりとつかった彼は、カップルを憎悪する女っ気のない友人たちとクリスマス打倒を目指しておかしな計画を立てるのだが…。


【一言抜き出すなら】
ダメだ。三次元だぜ。立体的すぎる。生きてる。しかも動いてる。

【感想】
森見さんの作品を初めて読みました。クセのある方だとは伺っていましたが、まさかここまでとは思いませんでした。。。
別に自分には合わないとは思いませんでした。
こんな風に分かりやすく、愛らしい形でなくとも、異性を苦手と感じてしまう人はたくさんいるのでは、と思います。

でも、主人公たちの考え方、ポジショニング、内面の吐露の描写があまりに多くて、物語の進行という面では遅々としていたため、多少疲れてしまいました。
内面の吐露こそが、この物語の醍醐味だと、分かってはいるつもりなのですが。。。

(62点.カルチャーショック!!)



応援お願いします!
人気ブログランキングへ

2010/08/21

「水の中のふたつの月」@乃南アサ

「水の中のふたつの月」@乃南アサ (1996/9刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベースより)
「忙しい」が口癖のOL亜理子は、幼なじみの恵美から十数年ぶりに電話をもらった。梨紗も誘ってかつての仲良し三人組で会おうと言う。突然の電話に不審を抱きつつ、彼女の心は夢のようなあの夏の日に溯っていった。心の奥底へと封印した、妖しい記憶の中へと―。ありふれた生活、時おり見せる特異な性癖。ありふれた彼女たちの表情の裏に見え隠れする、共通の秘密とは?深層に横たわる恐ろしい原体験が日常に染み出す様を描いた、衝撃のサイコ・サスペンス。


【一言抜き出すなら】
少女たちは、生まれて初めて妖怪の実物を見たと思った

【感想】
自分は正常だって120%言いきれるかどうか。
自分の執着心とか、性癖とか、恐怖体験をもう一度思い返して、自分の部屋をぐるりと見渡して。
自分は、120%正常だって言いきれるか。

そうるは、自分は正常だって信じてるけど、言いきれない。
小さな、「自分しかしらないこと」「周りに例を見たことない自分だけの小さな実例」を感じる度に、あれ?と思ってしまう。

そんなの、
・小さい時、テレビで宇宙人(想像図)が出る度に怖くて2時間泣き続けたこと
とか、
・歴史上の人物の名前はちっとも覚えられないのに、友達の中では一番、マンガの登場人物と作者に詳しかったこと
とか、
・キスするより「好きだ」って言うより、エッチする方が気が楽だったりすること
とか、
いろいろ本当にしょーもないどうでもいいことなんだけど。

しょーもない、って笑って片づけないで、私一人くらいは、それは大事な私の一部で、「正常」かどうかで測らないで、正面から考えてみないといけない。
そうしないと、この話みたいに、「正常」だと思い込んでいた「ちょっと変わった部分」が3人分寄り集まった時に、とんでもないことをしでかしても気づかなかったりするかもしれない。

(70点.共感しそこねたけど、ちょっと怖かった)



応援お願いします!
人気ブログランキングへ

2010/08/15

「夜明けまで1マイル」@村山由佳

「夜明けまで1マイル」@村山由佳 (2005/1刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベースより)
教授と学生。これはフリンなんかじゃない、恋だ。僕らの青春は、ちぎれそうだが、真っ直ぐ走るしかない…。僕たちそれぞれ、忘れられない恋!最新青春恋愛小説。


【一言抜き出すなら】
自分に居留守を使う

【感想】
若い時。まだ働いていない大学生の時。
自分が何になるかまだ決まっていなくて、「アーティスト」になることをほんのり夢見ている時。
アーティストじゃなくても、画家でも作家でも俳優でも、一般的に言う「就職」とは別の道を夢見ていたことがある人は多いんじゃないかと思う。
そうるも、一時「作家になりたいなあ」って思っていたこともあったし、投稿まがいのことをしていた時もあった。
その時の、夢と恋愛の両立とか、仲間との関係とか、心と感情の居場所なんかを懐かしく思い出させてくれるお話でした。
どんなことだって自分の糧になる時期だからこそ、「自分に居留守を使う」ことだけはしてはいけない。
たしかになあ、と納得しつつ、若いなあ、と感心しつつ。


(75点.思い出にしてしまわないで、もう一度頑張りたいとも思いつつ)




応援お願いします!
人気ブログランキングへ

2010/08/03

「遥かなり神々の座」@谷甲州

「遥かなり神々の座」@谷甲州 (1995/4刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベースより)
マナスル登頂を目指す登山隊の隊長になってくれ、さもなくば―得体の知れない男から脅迫され、登山家の滝沢はやむなく仕事を請け負った。が、出発した登山隊はどこか不自然だった。実は彼らは偽装したチベット・ゲリラの部隊だったのだ。しかも部隊の全員が銃で武装している。彼らの真の目的は何なのか。厳寒のヒマラヤを舞台に展開する陰謀、裏切り、そして壮絶な逃避行―迫真の筆致で描く、山岳冒険小説の傑作。


【一言抜き出すなら】
少しくらい離れていても、ニマの存在は嗅覚でわかった。

【感想】
 せっかく図書館でなんでも借り放題なので、「買う」「借りる」ではまず手を出さないような本を借りてみました。
 でも、なんとなく裏表紙のあらすじを読んで、惹かれるものがあったんですが。

 いや、勘はアタリでした! おもしろかった!

 登山のことは何も分かりませんし、
 ヒマラヤ周辺のネパールの中国やインドの紛争のことなんて、報道されている以下の殆ど無知の状態ですが。

 そんなことは関係なしに、猛吹雪の7000メートルの高さで身体が宙に投げ出される恐怖、
 夕陽に照らしだされる連邦の神々しく雄々しい姿が、目の前に浮かび上がるようでした。

 またそれとは別に、そのあたりの民族の紛争のむごたらしさ、人を殺すあっけなさ、人一人が生き抜くというそれだけのための苦労と獣じみた逃避行のリアルさ。
 
 いや、これはまるっきし日本じゃない。日本人が書いたもんじゃないよ、と思いつつ、でも訳書ではなく、日本語の表現のすばらしさを感じながら読めて本当に幸せでした。

嘘偽りなく、「傑作」だと思います!!

(90点。人が生きるってすごいことだ)





応援お願いします!
人気ブログランキングへ

「楊貴妃伝」@井上靖

「楊貴妃伝」@井上靖 (2004/8刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベースより)
「在天願作比翼鳥 在地願為連理枝」白居易の傑作「長恨歌」に歌われた玄宗皇帝と愛妃・楊貴妃。寵愛をほしいままにし、権力さえも手中にした貴妃の波瀾に満ちた短い生涯。時が移っても、変わらぬ人間の業を絢爛な絵巻のごとく流麗に描き出す。唐代の壮大な叙事詩にして、今なお熱く胸を打つ傑作長編小説。


【一言抜き出すなら】
運命

【感想】
 歴史小説ってジャンルを久しぶりに読みました。
 いや、すごいおもしろかった!
 難しい漢字の名前も、「また」を「亦」と書くややこしい表記も、
 まったくもって忘れてる唐代の中国史も、
 当然知らない当時の勢力図も。

 いろいろ心配点はあったんですが、全然気にならなかった!

 楊貴妃の心の移り変わりがすごく自然で、夫の父(義父)に嫁ぐ心持も、30以上も離れた玄宗皇帝への思いも、後宮の寵争いも、その中での楊貴妃の魅力も、わかりやすかった!
 …そりゃー玄宗もめろっめろですよ。素で男の扱い方を分かっているとしか思えない(笑)

 そしてそんな恋愛模様を描きつつ、唐が滅亡して安録山に裏切られて、玄宗が都落ちして楊貴妃が殺されるまでが一気に息つく間もなくハイテンポで分かりやすく描かれていて、楊貴妃の気持ちも分かりやすいし歴史ロマンも充分に感じられるし、改めて小説っていうか文字ってすごいなぁと思いました。

 何が伝えたかったって、言葉一言とかひとつのシーンとかじゃなくて、この時代の空気なんじゃないかと思いました。それこそロマンだ…
 

(88点。目からウロコ!!)





応援お願いします!
人気ブログランキングへ

「夜のピクニック」@恩田陸

「夜のピクニック」@恩田陸 (2006/9刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベースより)
高校生活最後を飾るイベント「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて歩行祭にのぞんだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために―。学校生活の思い出や卒業後の夢などを語らいつつ、親友たちと歩きながらも、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。本屋大賞を受賞した永遠の青春小説。


【一言抜き出すなら】
ぐちゃぐちゃ

【感想】
 青春はぐちゃぐちゃしているべき。
 毎日学校に行って。狭い人間関係に一喜一憂して。
 でも、それももうすぐ終わり。すぐに受験が来て、高校3年生の自分たちは、これから誰一人同じ道を歩むことなく散り散りになっていく。
 
 もし、高校最後に、これまでの「青春」の全てを精算できるイベントがあるとしたら、どうするだろう。
 そして、そのイベントはどんな形をしているのだろう。

 そうるは、そのイベントこそが、この「夜のピクニック」だと思う。私もこういうことがしたかった。もしあったら、この物語の子たちみたいに不平不満を垂らしながら、それでもサボることなく、大切な友達と歩くのだろうと思う。
 疲れて疲れて疲れ切って、恥も言い辛さも見栄も何もかも捨てて、素の会話ができるんじゃないかと思う。

 そしてその記憶を、青春の大切な思い出として、大きくなって酒の肴にするんだと思う。

 いいなぁ。

 だって、主人公だけじゃなく、殆ど全ての登場人物たちが、このイベントで青春を精算すべく、様々な形でもがいているんだもの。

(88点。憧憬って言葉が浮かぶ所が年だなー)






応援お願いします!
人気ブログランキングへ

「黒猫の三角」@森博嗣

「黒猫の三角」@森博嗣 (2002/7刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベースより)
一年に一度決まったルールの元で起こる殺人。今年のターゲットなのか、六月六日、四十四歳になる小田原静子に脅迫めいた手紙が届いた。探偵・保呂草は依頼を受け「阿漕荘」に住む面々と桜鳴六画邸を監視するが、衆人環視の密室で静子は殺されてしまう。森博嗣の新境地を拓くVシリーズ第一作、待望の文庫化。


【一言抜き出すなら】
テストで、わざと間違えたことがありますか?

【感想】
 森さん自身がどれだけ頭がいいのかは分からないけれど、森さんは本当に「頭がいい人」を書くのがうまいと思う。それも、ただ頭がいいだけではなくて、「覚えること」「応用すること」「閃くこと」に秀でた、正真正銘、頭の回転が速い、ものすごく頭がいい人を描くのがうまいと思う。
 Vシリーズと呼ばれる、紅子さんのシリーズ第一作。最後の方、あれあれっと思いこみが覆されて、全然予想外の人が犯人だった時は本当に驚いた。あれ、この人は探偵側で、客観側で、第三者なんじゃなかったっけ…?という騙された気分。

 でもそれも全て、「頭のいい人にとっての、それ故の、多少ばかり常識から外れた善」というものを書きたいがためだと思う。
 そして、この傾向はずっと今の森さんにも続いているんじゃないかな。

 頭がいいからこそ、常人では見落としがちな犯人のミスに気づく。
 頭がいいからこそ、常人では気づかない動機やトリックに気づく。

 そして頭がいいからこそ、常人ではできないことができる。

 こう書くと、言いすぎているのかもしれないけど。

(82点。平均的におもしろい)





応援お願いします!
人気ブログランキングへ

2010年7月のベストワン

7月に読んだ本…12冊

●内訳
知人から借りる…4冊
図書館…8冊

でした。
もう2冊くらい読んだ気もするけど、もう思い出せないので、飛ばすなり8月に繰り越すなりします。
通勤時間を主体に読んでいるわりにはいいペース★

8月からは職が変わり、暫く帰りも早いので、もっとペースが上がるかもしれません。
(上げたいとは思いますが、お盆もあるので分かりません!)


☆★2010年7月のベストワン!★☆

「海を抱く –Bad Kids-」@村山由佳
>

85点より高い点数や同じくらいの点数付けた本もあった気がしますが、姉妹本が読みたくなったという点で(そして現在図書館に予約しているという点で)今一番心に残っている本。

ちょっとした思春期の心や体の変化が、この本の登場人物ほどではないにしろ、もしかしたら自分だけなんじゃないかと思って恐ろしくなった夜、またこれから自分がどんな大人になるのかさっぱり分からなくなって、いつか見渡す日々の景色が一変して「日常ががらりと変わる日」が来るんじゃないかと漠然と思っていた頃。

そんなことを思い出しました。

まあ現実には、どの分岐点も自分で悩んで選んで進んできたものなので、気づいたら愕然とするほど驚いた場所には立っていないつもりなんですけどね。


85点!(あたたかい話だったなぁ)

そういえば、7月は森博嗣の「四季」を一通り再読したので、4冊追加です。
でもなんか、再読や自分の所持本の感想を今更書く気になれません…
またそのうち気が向いたら書きますー



この本面白そうかなって思った方★応援お願いします!人気ブログランキングへ

2010/07/27

「イン・ザ・プール」@奥田英朗

「イン・ザ・プール」@奥田英朗 (2006/3刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベースより)
「いらっしゃーい」。伊良部総合病院地下にある神経科を訪ねた患者たちは、甲高い声に迎えられる。色白で太ったその精神科医の名は伊良部一郎。そしてそこで待ち受ける前代未聞の体験。プール依存症、陰茎強直症、妄想癖…訪れる人々も変だが、治療する医者のほうがもっと変。こいつは利口か、馬鹿か?名医か、ヤブ医者か。


【一言抜き出すなら】
-----

【感想】
 同じ神経科医を訪れる、様々なタイプの患者たち。その一人ひとりをクローズアップしていく連作短編…でしたけれど。

…おもしろくない。

 もともと短編はあまり好きじゃない。
 表面だけさらっと書いて、皮肉って、結局その人がどうなったのか、どうしてそうなったのかよく分からなくて。
 一場面だけ切り取って、鋭利に怖がらせて、「人ごとじゃない」ような気にさせて、うまいぐあいに調理して。

 小説の技巧や設定が重視されて、あんまり登場人物への愛を感じないからかな。

 この批判が、この作品に対してなのか、この奥田さんに対してなのか、短編という形式に対してなのかはよく分からないけれど。

 ちょっとばかし表紙に期待してしまって、がっかりしてしまって、でも連作でパターン違いの表紙で次が出ているから、もう1冊くらい読んでみようかと思ったり。1冊だけで悪口言いっぱなしなのも申し訳ないし。

この1冊の中では、「コンパニオン」が印象的。っていうか、どれも客観的な意見が差し挟まれないまま進むので、感情移入しちゃうと自分も精神科行き的感覚を持ってるってことのような気がして、批判しながら読まないと正常じゃないような気がしてきて疲れちゃったよ。


(40点。レギュラー登場の精神科医も好きになれない。)






応援お願いします!
人気ブログランキングへ

2010/07/26

「海を抱く -BAD KIDS-」@村山由佳

「海を抱く –BAD KIDS-」@村山由佳 (2003/9刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベースより)
超高校級サーファーであり誰とでも寝る軽いやつと風評のある光秀。一方、まじめで成績優秀、校内随一の優等生の恵理。接点のほとんどない二人がある出来事をきっかけに性的な関係をもつようになる。それは互いの欲望を満たすだけの関わり、のはずだった。それぞれが内に抱える厳しい現実と悩み、それは体を重ねることで癒されていくのか。真摯に生きようとする18歳の心と体を描く青春長編小説。


【一言抜き出すなら】
言うつもりもないのに口から出たんなら、それこそ本心ってことじゃない

【感想】
 村山さんの昔の小説って優しい。
 懐かしい学生時代の恋愛を、それも登場人物たちにしてみれば等身大のどろどろでいやらしくて汚いお話を、けれどちょっと上から見下ろして、「綺麗な思い出」の一つになるように書いてる。ああ、大変なことがあったけれど、でもこの子たちは、トラウマになったりしないでまっすぐ進んでくだろうな、っていう感じ。
 なので、「ダブルファンタジー」では大泣きしちゃったけど、(そしてそれから村山さんにはまっているわけだけれど)通勤の電車の中でも心穏やかに読める。どこがどうなっていくのかは勿論気になるし、あっ!!て思って昔を思い出すようなシーンもあるけれど、ちゃんと「懐かしい」として処理できる。

 上に抜き出した、「言うつもりもないのに口から出たんなら、それこそ本心ってことじゃない」の一言も、今でもついついそうるがやらかしていまう、子供特有の部分で、直していかないといかないなって思う。
 本心っていうのは誰もが持っている。
 そしてそれを口から出すと、傷つくかもしれない人がいる。
 でも伝えたい、どうしても分かってほしい時に、時と場所を選んで、できるだけ傷つかないように、相手がまっすぐ受け止められるように、最善のお膳立てをする努力を行なわないといけない。
 それを怠ってしまった時。
 何にも通じなくなってしまう。本音は本当の事だから、正しくていつでも許されるってわけじゃない。

(85点。もう一冊の姉妹本も読みたいな。)




応援お願いします!
人気ブログランキングへ

「REVERSE」@石田衣良

「REVERSE」@石田衣良 (2007/8刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベースより)
ネットで出会い、心を通わせた男と女。しかしふたりは、自分の性別を偽っていた―一度送ったメールは二度ともとにもどせない。やり直しがきかない、人生のように。石田衣良。リバース。リアルな性を超えた新しい恋のかたち。ありえないことじゃない。


【一言抜き出すなら】
友情に乾杯

【感想】
 久しぶりの石田さんです。そうるが一番好きなのは「娼年」ですが、なんだかんだ石田さんの描く恋愛は、愛情とか劣情とかではなく綺麗な「恋」だな、という感じがするので、号泣したり投げ捨てたくなったりはせず、憧れの少女マンガみたいに読めます。「いいなーこんな恋!」って感じ。
 
 さって、女の人と男の人がそれぞれ自分の性別を嘘ついてメル友になり、どんどん仲良くなって、どうしても直接会いたくなっちゃったどうしよう、という話です。
 別に出会い系で知り合ったわけでもなんでもなく、あくまで「友人」としてメールをやり取りしているのだから性別にこだわるのはナンセンスなのかもしれない。でもどうしても、メールを書く時、送る時に相手を恋愛対象として見てしまっている自分がいる。

 性別ってなんだろう、友情と愛情ってなんだろう。

 そんな話です。自分の彼氏とか男友達とか別れた彼氏とか仲の良い女友達との、関係性と性差をちょっと考えてしまいました。そうるは、男女の友情は成立すると思うけれど、でもそれはやっぱり同性の友情とは別の形をしていると思います。

 そんな中で、主人公の女性(男と偽ってメールしている人)が、別れた彼氏と乾杯するシーンがあります。「友情に乾杯」って。
 終わった愛情は友情になる。同性との関係も友情になる。じゃあ、メールの先に居る人との関係はなんだろう。
 性別にうだうだ悩んで、メールの先に居る人に抱く気持ちが何なのか真剣に悩んで、初心な恋に頭をフル回転させているくせに、その合間に元彼とは笑って待ち合わせして「友情に乾杯」できるんだから、今の東京の恋愛事情はぐちゃぐちゃだなぁって思う。それが、なんとなくリアルだと思うんだから尚更だ。
 

(85点。愛するより恋する方が難しいのかな、やっぱり。)




応援お願いします!
人気ブログランキングへ

「ネフェルティティの微笑」@栗本薫

「ネフェルティティの微笑」@栗本薫 (1986/3刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベースより)
失恋の痛手から、ふらりと訪れたエジプトで出会った、謎の日本女性・小笠原那智。妖艶にして気高いその雰囲気は、古代エジプト史第一の美女として名高きネフェルティティその姿であった。愛され、崇められ、恐れられた“遠くから来た美しい人”ネフェルティティ。彼女の前に屈した時から、男たらは、己の野望に酔いしれ、そして死への道へと堕ちてゆくのだ―。灼けたエジプトの地平に描かれた、巧妙なトリックと華麗な愛の織りなす壮大なるミステリー・ロマンここに登場。


【一言抜き出すなら】
自由

【感想】
 栗本さん2作目。20年以上前の作品です。
 そうの個人的趣味としては、前回読んだ「天の陽炎」よりこっちの方がオススメ。ミステリ的なストーリーがしっかりしていて読みやすいし、起承転結があるので、うだうだと悩んでいる暇もなくどんどんとストーリーは進む。

なにより、謎の美女として描かれている那智が実際何を考えているのか、それは最後まで本人の口からは語られないし、あくまで周囲の人間の想定でしかないというところがかっこいい!!

謎めいていて美しくて、でもミステリアスで何考えているか分からない女性は、おいそれとストーリーの分かりやすさなんかのために誰かに自分の内面を語ったりしないのですよ!
心情表現がリアルで感情移入しちゃうのも感動しますが、こうやってちょっとばかり分かりやすい技巧を凝らされると、「ああ楽しく書いたんだなあ」と思って読んでいて楽しくなっちゃいます。

(85点。ライトノベルみたいな疾走感!)




__⇒同じ作家の別の本
・「天の陽炎」@栗本薫


応援お願いします!
人気ブログランキングへ

「天の陽炎」@栗本薫

「天の陽炎」@栗本薫 (2007/2刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベースより)
華族たちがゴシップで世間を賑わせている大正時代。女学校を出たばかりの真珠子はその美貌を見初められ、綾瀬成祐子爵と結婚した。だが、夫は彼女を着せ替え人形のようにしか扱わない。そんな彼女の前に、大陸浪人の天童壮介が現れる。天童は綾瀬から金を騙し取り、大陸での成功を企んでいた。彼の思惑を知りつつも、真珠子は天童の語る大陸への思いに惹かれていく。そして姑の死をきっかけに、彼女の運命が大きく動きだす。


【一言抜き出すなら】
もう、止めましたの。なにもかも。

【感想】
 世界で一番長い小説、グイン・サーが。栗本さんの書いたこの小説に惚れ込んで新刊を毎回楽しみにしていたのですが、なにしろもうお亡くなりになってしまったことですし、天地がひっくり返ろうが奇跡が起ころうが、グインの続きが出版されることは金輪際ないわけで。

あまりに寂しくなってしまったので、グイン以外の栗本さんの著作をほとんど読んでいないことも思いだし、ちょっと図書館から借りてきました。

…栗本さんって、何書いても変わらないんだなと。まあ第一印象ですけど。
ぐぢぐぢ悩んで、悩むだけで前に進めなくて、いやだいやだと思いつつ、結局1歩も前に進めていなくて。
そんな、読んでいる此方側がイライラしてしまう登場人物の心理描写が巧みで、「お前もういいから考えずにいけよ!!」と何度も叫びたくなりました。

でもふと読み終わってみると、そうやってぐぢぐぢ悩んで結局なにもしないってことが自分にもあるから、自己嫌悪と相まってイライラしてしまったんだろうな、と思ったり。

只うろうろとその場で悩むだけの人の話って、本当につまらないんだな、と実感。
グイン・サーガも途中なんっかいもびっくりするほど長くうだうだと悩んでいたりもしていましたが、全体のストーリーが長すぎて、あまり比率として気にならなかったんだな、と気付きました。1巻だけの話でうだうだされるとはっきり言ってうざい(笑)
(60点。つまらん! 作品としての完成度云々ではなく。)



この本面白そうかなって思った方★
応援お願いします!

人気ブログランキングへ

2010/07/14

「笑わない数学者」@森博嗣

「笑わない数学者」@森博嗣 (1997/7刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベースより)
偉大な数学者、天王寺翔蔵博士の住む「三ツ星館」。そこで開かれたパーティの席上、博士は庭にある大きなオリオン像を消してみせた。一夜あけて、再びオリオン像が現れた時、2つの死体が発見され…。犀川助教授と西之園萌絵の理系師弟コンビが館の謎と殺人事件の真相を探る。超絶の森ミステリィ第3弾。


【一言抜き出すなら】
負け方を考えることは、気の利いたジョークを思い付くよりも、はるかに難しいものだ。

【感想】
 森さんらしさ、を知るならベストな1冊なのでは、と思います。

 物語をひっぱる犀川助教授と西之園さんの人間らしさがすごく丁寧に書かれてるし、
謎も適度に難しく(あくまでミステリビギナーなそうるの感覚ですが)、
また、他の殺されたり殺したり怯えたりする人たちも皆それなりに一風変わっていて、
とてもおもしろく読めました。

  そうるは、森さんなら「スカイ・クロラ」と「四季」に惚れ込んでいるのでどうしてもそれに匹敵するドキドキ感は無いのですが、でも通じるものはあるし(この雰囲気―!!って感じる箇所があるととても嬉しくなります)、どれも外すことなく面白いのでついつい手に取ってしまいます。

 しかし、「名探偵コナン」を読んでいても思ったのですが、どうしてこう連作のミステリモノって、レギュラー人物(この作品なら犀川助教授と西之園さん、コナンなら新一とコナンと蘭ちゃん)の人間関係に全く進展がないんですかね…
 これがお決まりだって分かっているんですけど、ついついじれったくなっちゃいます。

(80点。贔屓点モリモリ。)




この本面白そうって思った方★
応援お願いします!

人気ブログランキングへ

2010/07/12

「余命1ヵ月の花嫁」 @TBSテレビ報道局

「余命1ヵ月の花嫁」 @TBSテレビ報道局 (2009/3刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベースより)
イベントコンパニオンをしていた長島千恵さんは23歳だった2005年の秋、左胸にしこりがあるのを発見、乳がんとの診断をうけた。ちょうどそのころ赤須太郎さんから交際を申し込まれ、悩みに悩んだが「一緒にがんと闘おう」という言葉に動かされ、交際がスタートした。しかし、がんの進行は止まらず、翌年7月に乳房切除の手術をせざるをえなくなる。それでも治ると信じ、SEの資格を取り再就職し、次第に病気のことは忘れていった。ところが、2007年3月、激しい咳と鋭い胸の痛みに襲われ、主治医の元に。胸膜、肺、骨にがんが転移していたのが判明。そんな千恵さんのある願いを叶えようと、太郎さんと友人たちは…。最後まで人を愛し、人に愛され、人を支え、人に支えられた24年の人生を生き抜いた長島千恵さんからのラスト・メッセージ。


【一言抜き出すなら】
生きてる。

【感想】
 泣きました。
 最近とことん、女性の「生きるとは」的な話に弱いです。
 「これをしたい!」とか、「私の人生これをやるんだ!」って決意した女性が、選んだもの、その為に捨てたものの話を読むと泣いてしまいます。

 …多感な年頃なのかな。
第二青春期とか。

 「千恵さん、いつも病室で何をしているんですか?」
 って何気なく聞いた彼氏に、ずばっと千恵さんの、上記抜き出した一言。
 切実過ぎて、一生懸命すぎて、はっとさせられて、何も考えられなくなってしまいました。

 のんびりした時間がたくさんあって、考える時間がたくさんあって、パソコンがあれば世界とつながっていられて…
なんて、「入院」すら、のんきに捉えていました。(そうるは入院したことないです)

もう一つ、印象的な言葉。
 「みなさんに明日がくることは奇跡です。
   それを知っているだけで、日常は幸せなことだらけで溢れています。」


(88点。ノンフィクションに泣かされるってなんか悔しいので)




この本面白そうって思った方★
応援お願いします!

人気ブログランキングへ

「「世界征服」は可能か?」 @岡田斗司夫

こんにちは、そうるです。
同期の友達に借りて、久しぶりに新書を読みました。

「「世界征服」は可能か?」 @岡田斗司夫 (2007/6刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベースより)
アニメや漫画にひんぱんに登場する「世界征服」。だが、いったい「世界征服」とは何か。あなたが支配者になったらどのタイプになる?このさい徹底的に考えてみよう。


【一言抜き出すなら】
世界征服した後、何をするか?

【感想】
 こういう、一見ばかげたタイトルの新書は、軽い気持ちで読める上、懐かしいアニメ・漫画の画像も出てきて(レッドリボン軍のボスが出てきたよ! @ドラゴンボール)とても楽しみました。
 本当に真面目に「世界征服」をするとしたら、 必要なこと って何なのか。

 それを突き詰めて考えたら「世界を征服しようとする組織」を運営するための話になってしまって、なんだか気付いたら組織運営のハウツー本だったりして。

 悪の組織っていうのは理念も道徳も背徳的だし、週休2日は望めないし、ある程度大きくないと「世界を征服しようとしている」実感も得られない。
だから、こんなダメダメな組織で働いてくれる従業員たちは大事にしなきゃいけないよ、と書いてあって、従業員を大事にする悪の組織って想像つかないけど、そういう矛盾を改めて纏めて考えることで、今自分が籍を置いている組織についてもなんとなく考えてしまったりしてして、こんな「悪の組織に関する本」でも実用書なんだな、と思いました。

抜き出した言葉は、「世界征服は夢のための手段であって、目的ではない」という意味の面白い言葉。
世界を征服でもしないと叶えられない願い …ってなんだろ。

 (82点!  新書の割に楽しかったです)



この本面白そうかなって思った方★
応援お願いします!

人気ブログランキングへ

2010/07/06

「すべての雲は銀の…」(下)@村山由佳

こんにちは、そうるです。
昼になりまして、あと今日の間にすることが何にもなくなってしまった…と思います。
はやく有給消化に入りたい。それが終わったら、新しい会社で楽しく働くんだ!(たぶん)

「すべての雲は銀の…」(下) @村山由佳 (2004/4刊)
【あらすじ】(「BOOK」データベースより)
宿を整え、厨房を手伝い、動物の世話をする。訪れるのは不登校の少女や寂しい老人、夢を追う花屋の娘たち…。人々との出会い、自然と格闘する日々が、少しずつ祐介を変えていく。一方、瞳子は夫の消息を追ってエジプトへ。もう一度誰かを愛せる日は来るのだろうか―。壊れかけた心にやさしく降りつもる物語。


【一言抜き出すなら】
私が幸せかどうかは、私だけが知っていればいいこと

【感想】
「ダブル・ファンタジー」には及ばなかったな…
 というのがまず感想です。
 まあ、2004年刊の本作を、5年後発刊の「ダブル・ファンタジー」と比べることがナンセンスなんですけど。
でも、この作家さんが5年後に「ダブル・ファンタジー」を書くのだと思うと、そうるとしての「好み!」はあくまで今の村山由佳なので、これからこの人が何をどういう風に書いてきたのか、合間を縫うように読んでいきたいです。
高校生くらいの時は、ごてごての恋愛小説を書く人、として村山由佳を毛嫌い(読まず嫌い)していたのですが、今この人の小説に感情移入出来ちゃうってことは、そうるの恋愛方面がちゃんと全うに成長してきたってことになるんですかね(笑)

ストーリーとしては、「落ち着くべき場所」に落ち着きすぎたかな、と思うところが少し。最近ミステリばっかり読んでいたので、最後にどんでん返しがなくてつまらなく感じちゃったのかもしれません。
綺麗すぎるくらい綺麗に纏まってる感じ。

ただ、最後に突然、主人公の祐介が「今のままじゃ嫌だ、今の中途半端なまま安穏としている自分にあと1秒も我慢できない。自己嫌悪で叫びだしたくなる」といったような意味の一文があり、これまでずっと逃避してきた安全な場所から一気に飛び出そうとするシーンがあるのですが、この瞬間、この心理、何がトリガ―なのか自分でも明確には言えないのだけれど、でも本当にイキナリ駆けだしたくなるこの心理の描写が、「私もこんな時あったな」とすごくたくさんのことを思い出しました。
そうして飛び出したことで、そうるはこれまでたくさんの人に迷惑を掛けてきたし呆れられもしたし悲しませたりもしてきたのですが、でもそうるは「我慢できなかった」自分、その先の「不確かな違う場所」に進むことを決めた私を誰より自分で認めたいと思っています。こういう自分が好きとか嫌いではなく、「ある日突然飛び出しがちな人」だと認めて、飛び出した先にあるものが良かろうと悪かろうとちゃんと責任もって受け止めていこう、前だけ見ていこう、と思います。飛び出してしまったものを後からぐちぐち言ってくさくさすることほどかっこ悪いことはない、とも思いますし。

まあこんな風にそうるは考えてるんですが、「ダブル・ファンタジー」を読んだ人なら(おい、影響受けすぎだよ!)って思ってると思います。
それだけ、私にとってあの主人公の奈津はかっこよかったんです。正にこういう風に考えて生きていきたい!!って感じでした。

でも、青春の一幕としては本作の祐介もとてもかっこよく、親近感が持てました。夢物語ではないけど、ありえる思い出としての綺麗さがあるかな、と。畑や温泉、動物たちの描写と併せて、すごく綺麗で懐かしい雰囲気がしました。

90点!(恋愛って素敵だなぁ)



この本面白そうかなって思った方★
応援お願いします!

人気ブログランキングへ

__⇒同じ作家の別の本
 ・「すべての雲は銀の…」(上)@村山由佳
 ・「W/F ダブルファンタジー」@村山由佳

「すべての雲は銀の…」(上)@村山由佳

おはようございます、そうるです。
今日、鞄に文庫本入れてくるの忘れました。。。精力的にいろいろと読もうと思っていた矢先のことなので少なからずショックです。ちぇ。

というわけで、週末と月曜日で一気に読んでしまったのがこちら。

「すべての雲は銀の…」(上) @村山由佳 (2004/4刊)


【あらすじ】(「BOOK」データベースより)
恋人由美子の心変わりの相手が兄貴でさえなかったら、ここまで苦しくはなかったのかもしれない。傷心の祐介は、大学生活から逃れるように、信州菅平の宿「かむなび」で働き始める。頑固だが一本筋の通った園主、子連れでワケありの瞳子…。たくましく働く明るさの奥に、誰もが言い知れぬ傷みを抱えていた。

【一言抜き出すなら】
冷たい足先を、奴のひざの間に差し入れて

【感想】
大学生の失恋、というありがちな挫折。恋人を盗られたのが兄だというのはちょっと珍しいけれど、でも20歳そこそこの時に、一番感情の振れ幅が大きくなるのはやっぱり恋愛なのかな、と思いました。
 登場人物はどれもできすぎているくらい「人間らしい」感じがしましたが、でもそのキャラクター達がごくごく自然に動き、話しているので(台詞回しはものすごく上手いと思いました)違和感、というものは殆ど感じなかったです。
 エピソードはどれもちょっとばかり「できすぎた」感じがしたのですが、年が近い所為か、一言抜き出した「冷たい足先を相手の膝の間に差し入れて眠る」元彼女の癖、というのが印象に残りました。
上手くいっているカップルには、きっと似たようなちょっとしたお決まりの仕草があって、別れた時にはその仕草が思い出される度にやりきれない気持がはちきれそうになって…と思いつつ読んでいたら、主人公に感情移入してしまいました。

 …88点! (下巻に期待大です)



この本面白そうかなって思った方★応援お願いします!人気ブログランキングへ

__⇒同じ作家の別の本
 ・「W/F ダブルファンタジー」@村山由佳

2010/07/05

「迷宮遡行」@貫井徳郎

こんにちは、そうるです。
7月に入って丁度読む本がなくなったので、この週末は図書館に行ってきました。
けれどなかなか読みたい本がなくて(借りられていて)、地元の田舎と違って都会の図書館は争奪戦が激しい、とほとほと実感しました。
だって、文庫じゃなくてハードカバーでも、楽しみにしていた本(しかも全然新しくない)がなかったりしまして…
しかたなく、知ってる作家さんで、まあまあ外れなさそうなのを借りてきた次第です。(冒険心ゼロ)

というわけで。
「迷宮遡行」@貫井徳郎  (2000/10刊)


【あらすじ】(「BOOK」データベースより)
平凡な日常が裂ける―。突然、愛する妻・絢子が失踪した。置き手紙ひとつを残して。理由が分からない。失業中の迫水は、途切れそうな手がかりをたどり、妻の行方を追う。彼の前に立ちふさがる、暴力団組員。妻はどうして、姿を消したのか?いや、そもそも妻は何者だったのか?絡み合う糸が、闇の迷宮をかたちづくる。『烙印』をもとに書き下ろされた、本格ミステリーの最新傑作。

【一言抜き出すなら】
お前の我が儘は今に始まったことじゃない。この一件が片づいたら絶交してやるから安心しろ。

【感想】
我が儘だけじゃなくて、情けない上に他人任せで職も金もなんにも無い。
そんな主人公が、妻を取り戻すために死地に赴くと話した時の親友の一言。
どうしょうもない主人公だけど、それでも周りに見捨てられたわけじゃない。
この文句はかっこいいけれど、でも、できれば言いたくも言われたくもない微妙な一言。

お話の方は、上手くできているな、と思ったし最後まで続きが気になって仕方がなかったのだけれど、難を言うとすれば。
…主人公の魅力が無さすぎる。
失踪した奥さんのことがとても好きなのは認めるけれど、それ以外に何も持っていなさすぎ。お金も職も無いし、他力本願だし行動の全てが運を天に任せるような行き当たりばったり。

こんな性格があまりに情けなさ過ぎてお話に「作り話感」が増してしまい、入り込めませんでした。貫井さん自身はとても好きな作家なので、デビューに近い作とはいえ、ちょっと残念な感じです。

…80点。(贔屓点込み)



この本面白そうかなって思った方★
応援お願いします!

人気ブログランキングへ

__⇒同じ作家の別の本
 ・「慟哭」@貫井徳郎
 ・「プリズム」@貫井徳郎 
 ・「失踪症候群」@貫井徳郎

2010/07/02

2010年6月のベストワン

6月に読んだ10冊は、全てお母さんが「お勧め!」って言って貸してくれたものでした。
貸してもらって手元にあるものだからついそればかり読んでいましたが、本来のそうるの好きな作家さんはもうちょっと違ったりします。

なので、7月からは図書館を活用して、ずっと読みたかった本なんかを借りてきたいな、と思ってます。ハードカバーでもめげずに電車の中で読むぞ!

☆★2010年6月のベストワン!★☆

「ルームメイト」@今邑彩


初めて読んだ人でしたが、そうるの好きな「青春」と「多重人格」をうまく絡めて話を展開してました。多重人格とか難病とか未来人とか、なんでもいいんですけど、絶対に感情移入できないだろう!!っていうくらい私と縁の無い設定の登場人物の心理描写がリアルで共感できちゃうと、「おもしろい」と感じます。

この作品も、登場する多重人格の子が切なくて感動しました…

85点!(ちょっと点数でも付け出してみようかなと)


この本面白そうかなって思った方★
応援お願いします!

人気ブログランキングへ

「ある閉ざされた雪の山荘で」@東野圭吾

こんにちは、そうるです。やっと明日から週末ですね。。。ディズニーランドに行こう、と考えているので、雨が降らないことを願うばかりです。この時期にディズニーランドに行く理想としては、雨の予報だから入場者が少なくて、でもノリで行ってみたら案外あんまり降らなくて楽しめた、というのがいいなーと思ってます。でもとっても楽しみ!! 2年ぶりくらいかなー…社会人になってからは初だな!

さて、そんなことを思いながら、現在「未読」棚に入っている最後の東野圭吾を読み終わりました。
と言っても、ちょこちょこ感想が追い付いていないので、思い出しつつ近日中にはアップしたいなと思っているのですが。

「ある閉ざされた雪の山荘で」@東野圭吾


【あらすじ】(アマゾンより)
早春の乗鞍高原のペンションに集まったのは、オーディションに合格した若き男女七名。これから雪に閉ざされ孤立した山荘での殺人劇が始まる。一人また一人と消えていく現実は芝居なのか。一度限りの大技が読者を直撃。

【一言抜き出すなら】
迫真の演技に、私は完全に騙された。

【感想】
 一つの所に複数人の男女が閉じこめられ、外界との接触を断たれている中で次々と人が殺されていくストーリー。
 「古典」と銘打たれるミステリーを読んだことがある人なら、誰でも「ああ」と思い付くような所謂「本格」モノ。
 東野圭吾が、その「本格」を目指し(もしくは意識し)、且つその中に「東野圭吾らしさ」を取り入れた結果として出来たこの作品は、純粋に「小説を楽しむ」ことができると思います。

 登場人物の誰かに感情移入して、泣いてしまうわけじゃ無い。
 自分の人生が変わってしまうほど、感動する名文句に出会えるわけじゃ無い。

 でも、「展開が読めない」とか、「本当に殺人は起きているのか」とか、「犯人は誰だ」とか、「どうやって殺したんだ」とか、分からないことばかりで、意図的に東野圭吾に情報操作されている中で、読み進むにつれて色々な方向に騙されて、真実を隠されて、でも少しづつヒントを与えられて。そうやって「小説を読んでいく」こと、「結末で大どんでん返しに驚く」ことの楽しさを、鮮やかに与えてくれる作品でした。
 
 ほんと、続きが気になって仕方なかった。

 「演劇」が作品のキーワードになっていて、その所為で、「人がいなくなっている」という現実の状況が、「殺された」ものなのか、「舞台上の設定で殺されただけでいなくなっただけ」なのかがまず分からない。「殺された」なら大変なことだけど、「いなくなった」だけなら騒ぎたてるのはまずい。

 設定に凝りすぎてストーリー性が欠けていたり、話が破綻してしまいそうな小説はたまに見かけますが(アマチュアにありがちなことなのかもしれませんが)、この作品はそんなことはなく、作者もこの「新しい試み」で「何が本当なのか分からない」トリックを楽しみながら書いたんだろうな、ということが伝わってきます。

 何回も前に言っていますが、東野圭吾はプロの「小説家」で、文章で人を楽しませる「エンターティナー」だ、とまたしてもしみじみ思った話でした。



この本面白そうかなって思った方★
応援お願いします!

人気ブログランキングへ


- - - ⇒同じ作家の別の本
「時生」@東野圭吾
「使命と魂のリミット」@東野圭吾
「赤い指」@東野圭吾
「天使の耳」@東野圭吾
「ウインクで乾杯」@東野圭吾
「さまよう刃」@東野圭吾
「11文字の殺人」@東野圭吾
「秘密」@東野圭吾

2010/06/29

「長い腕」@川崎草志

 こんにちは、そうるです。
 起きたらものすっごい雨が降っていてびっくりしたんですが、家を出るころには止んでました…梅雨の天気って気分屋すぎる。猫みたいだな、とふと思い、そう思えば可愛い気がしないこともない…かなぁと思いました。
 寒い冬は嫌いですが、じめじめする梅雨も嫌いです。海に行きたい!!

 さて、今日はちょっと異色作。
「長い腕」@川崎草志


【あらすじ】(アマゾンより)
超一級の傑作サスペンス、誕生! 第21回横溝正史ミステリ大賞受賞作!!
東京近郊のゲーム制作会社で起った転落死亡事故と、四国の田舎町で発生した女子中学生による猟銃射殺事件。一見無関係に思えた二つの事件には、驚くべき共通点が隠されていた…。

【一言抜き出すなら】
 自分の持ち物は、シートを外した車の助手席に入れられる限りと決めている。

【感想】
 さて、お母さんに借りた本を雑食に読む日々が続いているので、必然的にミステリばかりなのですが、別にそうるは謎解きやトリックにはあまり興味がありません。
 ただ、ミステリはどうしても犯人や被害者の心情、人間らしさを綺麗にも汚くも書かなければならない分野だと思うので、面白いなぁと感じて読んでいます。自分の感情の機微とか人間としての醜さなんて、普段は意識して言語化したりしないで過ごしてるわけですから。
 で、今回の「長い腕」は、川崎さんのデビュー作です。デビュー作らしく、ところどころ日本語が読みづらかったり、展開が不必要にだらけている感がありますが、そういう「洗練されていない部分」があるからこそ親しみが持てるし、次世代の作家が「俺も俺も!!」って意気込むんだろうなあと思います。
 そんな、親しみが持てるミステリ「長い腕」の主人公である汐路の人間らしさを、最も端的に表していると思われる一文が上に抜き出したものです。
 別に川崎さんを非難するつもりは無いのですが、
 ・所有物が少ない
 ・生活感がない
 ・帰属意識が薄い
 ・恋愛に無関心
 ・小さくて細い
 ・性格が淡泊
 な女性と言えば、ふととある有名アニメの登場人物を思いだすのは私だけでしょうか…
 そうでなくても、なんだかあまり感情移入の出来ない、造り物で浮世離れした雰囲気を持ったキャラであることは間違いありません。
 そもそもそうるは、持っているダブルベッドだけで既に普通の自家用車には入りませんし、「物の少ない生活」、「所属組織を転々とする生活」に憧れは感じますが、現実的にそんなことはとてもできません。
 架空のキャラクターなので別にどのような人物でもいいのですが、アニメのキャラクター張りに実在感の無い設定である汐路(おそらく好みか憧れか、デビュー作のキャラクターとしてこの汐路を選んだからには、川崎さんにとって特別な設定なのだと思いますが。そこで、川崎さんがゲーム会社出身の業界人であることを加味すると、思い込みによる差別的発言になってしまうとは思うんですけども)を、こんなにも現実世界にいるかのように書き、殺人事件に紛れ込ますことに成功した、というのはある意味で成功なのかな、と感じました。
 ただ、行動の動機や思考のパターンなんかが、どうしても共感できないモノになっているところは溜息を吐いて見逃すしかないかな、と思います。エンターテイメントとしては、充分に面白かったのですけども。
 




この本面白そうかなって思った方★応援お願いします!人気ブログランキングへ

2010/06/28

「時生」@東野圭吾

こんにちは、そうるです。
久しぶりに、良い名前に出会いました。
息子に付けたい。そうでなければ、いつか創る物語の主人公に、この名前を使いたいと本気で思いました。

「時生」@東野圭吾


【あらすじ】(アマゾンより)
不治の病を患う息子に最期のときが訪れつつあるとき、宮本拓実は妻に、二十年以上前に出会った少年との想い出を語りはじめる。どうしようもない若者だった拓実は、「トキオ」と名乗る少年と共に、謎を残して消えた恋人・千鶴の行方を追った―。過去、現在、未来が交錯するベストセラー作家の集大成作品。

【一言抜き出すなら】
あの人の若気の至りを見るのは辛い

【感想】
 もし、自分が18で死ぬ体だったら。
 そうるはとっくに18を過ぎているから、もっと現実的に考えて、例えば、あと5年しか、3年しか、1年しか生きられないとしたら。
 何のために生きるだろう。
 最後の瞬間に、「生きて良かった」と笑うために生きるだろう、って気がする。
 そんな体に産んでごめんって両親に泣かれないために。
 こんな私でも、出会えてよかったっていろんな周りの人に思ってもらうために。

 けれどこの話はちょっとだけSFだから、死んだあと、時生の体は過去に流れて、若い青春しているお父さんと同じ時を生きることになる。未来で、自分の父になるお父さんは、今はまだ青くて、若くて、向こう見ずなことをたくさんしていて。
 そんな、「お父さん」らしくないお父さんと共に生きて、子供は何を思うだろう。例えば私だったら、若い、まだお父さんと出会う前の若いお母さんに会ったら、果たして友達になれるだろうか。
 私(子供)は、生まれてもあんまり生きずに死んでしまうって分かり切ってて、悲しませるって分かってるのに、お母さんにもお父さんにも、他の道がまだ残されている時に、私(子供)に至る道を、私はどう見つめるのだろう。
 生まれたい、と思うのだろうか。
 そしてそれを、自分は身勝手だと感じるだろうか。

 綺麗事でも、SFが入り混じった夢物語でもなんでも、この「時生」の中で、時生は後悔することなく、自分は幸せであり、家族は幸せであり、そこに至る道が「有るべき姿」「幸せの姿」だと望む。そこに不安や迷いは、驚くほどに少ない。

 人生には、様々な路がある。

 その時を、その瞬間を生きて生きて、人は今に、未来に辿り付く。

 その未来が、「あるべき」未来であるために。後悔しないために。幸せになるために。
 ひたすらに、生まれることが正しいと言い切れる時生をかっこいいと思うし、子供がこう感じてくれる親になりたいと思う。

そんなわけで、「時生」って良い名前だな、と思った。
 …ちなみに、女の子に付けたいNO1は「未駆」です。「未来を駆ける」。私って、ちょっとSFチックな名前が好きみたいです。




この本面白そうかなって思った方★
応援お願いします!

人気ブログランキングへ


- - - ⇒同じ作家の別の本
「使命と魂のリミット」@東野圭吾
「赤い指」@東野圭吾
「天使の耳」@東野圭吾
「ウインクで乾杯」@東野圭吾
「さまよう刃」@東野圭吾
「11文字の殺人」@東野圭吾
「秘密」@東野圭吾

「使命と魂のリミット」@東野圭吾

こんにちは、そうるです。
週末も明け、月曜日が始まりました。通勤読書用のストックがなくなってきたのに今日気付いて、週末にブックオフに行けば良かったと思う今日この頃です。

さて。

「使命と魂のリミット」@東野圭吾



【あらすじ】(アマゾンより)
心臓外科医を目指す夕紀は、誰にも言えないある目的を胸に秘めていた。その目的を果たすべき日に、手術室を前代未聞の危機が襲う! 大傑作長編サスペンス。

【一言抜き出すなら】
全力を尽くすか、何もしないか。その2つのことしか医師にはできない。

【感想】
研修医の夕紀と、その夕紀が抱く思惑。これが、この物語の主軸。
に対して、その夕紀の思惑に立ちはだかって壁の一つとなったり、また最後には大団円を連れてくる。それが、この物語の傍軸である、病院爆破を企む男の思惑。

どちらの物語も臨場感たっぷりに、夕紀にも男にも同情させて、いったいどうなるのかとはらはらどきどきさせる。けれど決して、「夕紀が主人公である」ことや、「物語のエンドが夕紀のためにある」ことは揺るがない。だから、東野圭吾の小説は分かりやすくて読みやすく、けれど有る程度複雑に絡み合っていて、読み手が読破の満足を得やすいのだと思う。
 そうるも、「ものすごく東野圭吾が好き」ってわけじゃないけど(たまにこの話は好きだ―っていうのもありますが、そういう大好き!って思える東野圭吾に出会うのは稀です。「白夜行」と「秘密」は好き。あと、エンターテイメントとして好きなのは「天空の蜂」かな。この作家の書いたものはどれも好き!って思えないあたりが、東野圭吾はプロなんだなあと感じられて逆に作家に好感が持てますが、作品をあまり愛せない、っていう感じです)


 さて、じゃあ医師じゃなくってただの営業である私は、「全力を尽くす」と「何もしない」以外の選択肢を勿論持っているわけです。「8割ぐらいで仕事して早く帰る」日もあるし、売上数字によってお客様に対する優先順位を付け、その順位が下位になっちゃうお客様には、5割くらいの力で仕事をしたりする。
 そのどちらが良いというわけではないし、職業の違いから仕方がないことだと思うのですが、「医者になりたい」というわけではなく、「全力で何かをしたい」と思うことはあります。
 別にそれは仕事でなくてもいいんですが、プライベートでその「全力投球」なものを見つけた場合には、仕事は、事務とかパートとか、絶対定時に帰れてプライベートを脅かさないものがベストなんだろうなぁと思います。
 今のところ、それが見つからなくてふらふらしている状態なので、適度に大変で適度にハイリターンな総合職で仕事をしてますけど。(そして8月からも同系統で転職しますけど)

 少しずつ、「自分にベストな働き方」を見つけたいと思います。「何がしたい」っていう明確な夢がなくて、「どういう生活したい」っていう夢も明確に描かないまま就職しちゃったから、いまだに社会人になってモラトリアムにいろいろ探してしまっているんだと思うと反省点も多々ありますが。
 まあ基本的にそうるは自分に肯定的なので、今のこの時間も「必要」なんだと割り切って、職を転ずる次第であります。

 しかし、こうやって何か書くのは好きだな。だからこうしてつらつらと幾つもブログやってるんだろうけど(笑)





人気ブログランキングへ


- - - ⇒同じ作家の別の本
「赤い指」@東野圭吾
「天使の耳」@東野圭吾
「ウインクで乾杯」@東野圭吾
「さまよう刃」@東野圭吾
「11文字の殺人」@東野圭吾
「秘密」@東野圭吾

2010/06/21

「慟哭」@貫井徳郎

デビュー作を読むのが、あまり好きではありません。
「この人は最初からこんなに書けたのか」と感嘆する一方で、絶対に、
「私にはこんなのは書けない」と思ってしまうからです。
勿論どんな小説家も、デビューする前に何十作と習作を書いているのだと頭では分かっているのですが。


「慟哭」@貫井徳郎


【あらすじ】(アマゾンより)
連続する幼女誘事件の捜査が難航し、窮地に立たされる捜査一課長。若手キャリアの課長を巡って警察内部に不協和音が生じ、マスコミは彼の私生活をすっぱ抜く。こうした状況にあって、事態は新しい局面を迎えるが……。人は耐えがたい悲しみに慟哭する――新興宗教や現代の家族愛を題材に内奥の痛切な叫びを描破した、鮮烈デビュー作。


【一言抜き出すなら】
腐敗臭が彼を現実に立ち戻らせた

【感想】
小説の世界はノンフィクションじゃない。
ノンフィクションの世界(この現実)には、どんな理由があったとしても(復讐でも恨みでも天罰でも)人を殺しちゃだめ、という常識があります。
でも、そんなに簡単に「だめだからやらない」と割り切れるものでもない。
だからこそ、殺人を犯す犯人の苦悩を描き、つい同情してしまう作品はたくさんあると思います。
殺すことはだめだけど、でもどうしても殺したい主人公の気持ちが分かってしまう話。
(前にレビューした、東野圭吾の「さまよう刃」はまさにそういう作品です)

けれど、この主人公はただの殺人犯じゃない。
連続幼女誘拐事件の犯人で、誘拐した幼女は全て殺してしまっています。
日本中を震撼させる非道な殺人犯であるこの男を、同情することはできるのか。


…できてしまいました。
人間、大概の一般の人から「変質者」と評されたり、「殺人犯」としてラインを踏み越えちゃうようなところには、案外簡単に行けるものかもしれません。



人気ブログランキングへ

__⇒同じ作家の別の本
 ・「プリズム」@貫井徳郎 
 ・「失踪症候群」@貫井徳郎

2010/06/18

「誰か -Somebody-」@宮部みゆき

さて、時間があるので、読んでしまった分を纏めて書いてしまいたいと思います。
結構1冊分書くのに時間が必要みたいで、読書スピードに追いつけなかったりします。
…オンタイムにいけない子です(笑)


「誰か –Somebody-」@宮部みゆき



【あらすじ】(アマゾンより)
今多コンツェルン広報室の杉村三郎は、事故死した同社の運転手・梶田信夫の娘たちの相談を受ける。亡き父について本を書きたいという彼女らの思いにほだされ、一見普通な梶田の人生をたどり始めた三郎の前に、意外な情景が広がり始める―。稀代のストーリーテラーが丁寧に紡ぎだした、心揺るがすミステリー。

【一言抜き出すなら】
「杉村さんみたいな恵まれた人に、私の気持ちが分かるはず無いわ!」

【感想】
 宮部みゆきって、この手の話が多いような気がする。あんまり言うほど数を読んだことがあるわけじゃないけど、普通の人が、何らかの事件に接触して、巻き込まれて、その後自分の意思で更に首を突っ込んで、ああだこうだと騒いで、最終的になんとか「解決」ないし「落着」する、その紆余曲折を語るストーリー。
 今回も例に漏れず、財閥の一人娘に婿養子に入った主人公は、頼まれた面倒事を嫌がらずに引受け、依頼人と一緒になってああでもないこうでもないと思案し、果てには依頼人の姉妹の心情を慮って情報を故意に隠蔽したりして、あくまで「優しい良い人」として行動する。
 主人公は別に善意からやっているだけで、施しているつもりも優位に立っているつもりもないのに、結局最後に、依頼人であった姉妹の一人から、抜き出した一言を言われてしまう。

 そんなつもりはなかったのに。
 「恵まれた」ことを誇示しているつもりはなかったのに。
 勘違い甚だしいと言葉を尽くそうとしても、現にお金に困っていない温かな家庭を持つ主人公にしてみれば、返す言葉なんてない。
 努力は報われないこともある。優しさは伝わらないこともある。
 
 頭では分かっているつもりだし、実際にそうなって悔しい想いをしたこともあるけれど、いざフィクションのご都合主義の中でそれをやられてしまうと、いたたまれない気持ちでいっぱいになる。
 
 まあ、だからこそ「はっ」とさせられる一言だったわけだけれど。
 


人気ブログランキングへ

- -⇒同じ作家の別の本
 ・「楽園 上」
 ・「楽園 下」

「重力ピエロ」@伊坂幸太郎

おはようございます。そうるです。
少し前に読んだものが溜まってきてしまいました。

さて、よく映画化される人気の伊坂幸太郎さんですが、遅まきながら、初めて読んでみました。


「重力ピエロ」@伊坂幸太郎


【あらすじ】(アマゾンより)
連続放火事件の現場に残された謎のグラフィティアート。無意味な言葉の羅列に見える落書きは、一体何を意味するのか?キーワードは、放火と落書きと遺伝子のルール。とある兄弟の物語。

【一言抜き出すなら】
 赤の他人が、父親面するんじゃねえよ

【感想】
 軽快なタッチだからか、謎が多くて且つ暗い過去のある登場人物が多く出てくる割に、すらすらと読み進めることができました。
 お母さんが、近所の強姦魔に襲われて、その結果できたのが自分。
 お母さんも、戸籍上のお父さんも、半分しか血の繋がらないお兄さんも、分け隔てなく自分を家族として見て、接してくれる。
 その状態で育った時、人はどれぐらいまっとうで、どれぐらい歪んでしまうのか。勿論、同じ境遇で育った人が皆同じように考えるわけではないだろうし、これはあくまで伊坂さんの考えた捻じれであり、執着であり、ゴールなんだと思うけれど。
 どうしても感情移入はできなかったけれど、家族として幸せで、不自由は無くて、でもそうやって最初の出自が少し歪んでしまうだけで、こんなにも普通で無いものを背負った人が出来てしまうんだな、と思いました。
 親とか子どもって、単純な構造なのに本当に難しい。
 抜き出した一言は、そうやって生まれてしまった自分(弟)が、最後の最後に自分の出自とかこだわりとか、憎しみとかに決着を付ける台詞です。
 ああ、伊坂さんは、この一言を言わせたかったんだろうな、って思った。それだけ、力のある言葉だと感じました。
 この一言のために書いた!!っていう言葉がある作品っていうのは、作者のこだわりとか執着とか、「何が書きたい、どういうシーンが書きたい」っていうのが分かりやすく伝わってくるので好きだな、と感じます。

2010/06/10

「ボトルネック」@米澤 穂信

こんばんわ、そうるです。
やっぱり、読み終わった後記憶で書くより、直後に本を手元に置いて書く方がしっくりきます。


「ボトルネック」@米澤 穂信



【あらすじ】(アマゾンより)
亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した…はずだった。ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。

【一言抜き出すなら】
羨ましいんだよ

【感想】
「羨ましい」という言葉が、こんなに切実な言葉だったとは思いませんでした。

「こうなれたらいいのに」「ああなりたかったのに」と思う理想、そしてそれを体現している「羨ましい」という感情は、誰でも誰か(親戚や友達、芸能人)に対して持つものだろうと思います。

でも本当にもこんなに、「この人になりたい」と思う感情、羨ましいという思いを、そうるはこの本で初めて知りました。

「自分がいない世界」を夢想したことは何人もいると思います。
でも、「自分の代わりに誰かがいる世界」を考えたことのある人は少ないんじぉないだろうか。

主人公は、偶然、自分が生まれる前に流産してしまった姉がいた。
たから、「自分がいない世界」=「姉が生まれ、自分が生まれなかった世界」というやや一般的でない夢想と理論が成り立ち、そして本当に、「自分の代わりに姉がいる世界」に飛んでしまった。



こんなに壊滅的に、こっぴどく、完全なまでに、「自分はいない方がよい人間である」ことを思い知らされる人は、たとえ物語の中の人であってもいないと思う。そうるは初めて見た。


彼が死にたいと言っても、生きたくないと言っても、私は止められない。


過去は変えられない。可能性を実際に比較することはできない。
自分は、自分のいない世界を見ることができない。
未来に何が起こるのか、分からない。

それは、どれだけ、どれだけ幸せなことだろうかと思う。
摂理が曲がること、それは、適応しない私たちが不幸せになること。


2010/06/09

「楽園 下」@宮部みゆき

こんにちは、そうるです。どうせなので一気に書いてしまいたいと思います。
「楽園」の下巻です。

書く前にふとアマゾンのレビューを読んだのですが、
どうしてああ皆さんは的確なレビューが短文でできるのでしょうか。。。
いつもアマゾンに投稿したいと思うのですが、ネタばれでも無い、私情でも無い的確で短文なレビューというものがどうしても書けずに戸惑います。

まあさておき。
「楽園 下」@宮部みゆき



【あらすじ】(アマゾンより)
ライター・滋子の許に舞い込んだ奇妙な依頼。その真偽を探るべく16年前の殺人事件を追う滋子の眼前に、驚愕の真実が露になる!

【一言抜き出すなら】
母親の勘、か。
はったりだった―――か。

【感想】

「勘だったんです」

何か素晴らしいことをした時。
褒められるようなことをした時に、とっさにこう切り返すことが、この先生涯で、私にできるだろうか。
できないだろうな、と思った。
だから物語の終末で、敏子がこう言った時、すごいと思った。

この人は背伸びをしない。
身の程をわきまえている。
本当に欲しいもの以外を中途半端に欲しがったりしない。
自分がどう動けば丸く収まるか、しっかりと考えている。
間違っても、勘で動く人間ではない。

かっこいい。


そして余談だけれど。
複数人の思惑をものの見事に描ききっていて圧巻なのだけれど、
でもやっぱり等の話と茜の話が同等に扱われていて、「じゃあ結局何が一番書きたかったのか」ということがそうるには分かることができない。
だからなのかアマゾンのレビューを読んでしまったからなのか、なんだかすごく書きにくい。

そして宮部みゆきの小説って大概そうだから、私は模倣犯も、全く筋を思い出せないのではないだろうか。
(良いとか悪いの話では無いのだけれど)

「楽園 上」@宮部みゆき

上下巻ものを久しぶりに読みました。
こんにちは、そうるです。

お母さんのお墨付きで読みだしたら、止まらなくなりました。
流石です。大家、という言葉を思い出しました。

「楽園 上」@宮部みゆき


【あらすじ(アマゾンより)】
未曾有の連続誘拐殺人事件(「模倣犯」事件)から9年。取材者として肉薄した前畑滋子は、未だ事件のダメージから立ち直れずにいた。そこに舞い込んだ、女性からの奇妙な依頼。12歳で亡くした息子、等が“超能力”を有していたのか、真実を知りたい、というのだ。かくして滋子の眼前に、16年前の少女殺人事件の光景が立ち現れた。

【一言抜き出すなら】
渡ってしまった。ルビコン河だ。

【感想】
まず、「ルビコン河」という単語を調べました。ウィキペディアで。
この単語は、作中突然登場したもので、何の脈絡もなく、けれど主人公の滋子が、滋子ににとって大きな意味のある一瞬に発したうめきでした。

中立の立場を守ろうとしていた。どっちに偏ってもいけないと思っていた。
あくまでそう求められており、自らもそうあろうとしていた。
けれど心の中では、こっちなんじゃないかという思いがむくむくと大きくなってきていて。
けれどいけない、そっちに流されちゃいけない、中立でなければならないと留まって。
そうこうしているうちに、何も考えずに感情が爆発した瞬間に、言ってしまった。
「私はこちらの味方をする。こっちが正しいと思う」と。

その時に渡ったのがルビコン河。
世界史の知識なんてものはそうるの頭の中から抜け落ちていて、
やっとこ知ったのは、紀元前のローマで、圧倒的な権威を誇っていた元老院の、
歴史と共にその威光が失墜した、その契機が「カエサルがルビコン河を渡ったこと」なんだということだ。
当時の権力関係も血筋も地理も何もかも疎くて、どうしてカエサルが河を渡ったくらいで元老院がなし崩しに弱くなってしまったのかはさっぱり分からないけれど、ともかく歴史的にとてつもなく大切な渡河だったということは分かった。
その後、一つの国の運命を左右させてしまうくらいには。

滋子は渡った。その後の人生を、事件の顛末を左右させてしまう契機を。だから、宮部みゆきは書いた。「ルビコン河を渡った」と。

話の内容は文句なくおもしろいし、ぐいぐい引き込まれる。けれど一番心に残ったのは、この「ルビコン河」だった。

そういう単語を、臆面なく、さらりと自然に使える人になりたい。
世間的にはちょっと間違っているかもしれないけれど、そうるにはそういう知識と使いどころの心得た人のことを、「教養がある人」というような気がする。


ついでに、この話は宮部みゆきの絶対的な代表作、「模倣犯」に繋がる話になっているわけだけれども(これだけ読んでも問題は無いけれど)。
そうるはせっかく模倣犯を読んだことがあるのに、この「楽園」を読んでも読んでもちっとも模倣犯の話の内容を思い出しませんでした。
もったいない。
すっごくおもしろかったことしか覚えてない。

そういう歯がみをしたくなるとやっぱり、こういう読書記録は付けておくべきだと痛感します。
あー頑張って続けよう。

…話の感想は下巻の折にでも。


2010/06/07

「ルームメイト」今邑 彩

こんにちは、そうるです。
お久しぶりです。読んでも書かない日が続いてましてご無沙汰です。

久しぶりに一気読みしました。
本を読んだ感想って、3日ぐらいしか覚えていられないリアルタイムなものだと思うので、しっかり書き残していきたいと思いつついつも坊主気味なのです。。。


「ルームメイト」@今邑彩


【あらすじ】(アマゾンより)
私は彼女の事を何も知らなかったのか…?大学へ通うために上京してきた春海は、京都からきた麗子と出逢う。お互いを干渉しない約束で始めた共同生活は快適だったが、麗子はやがて失踪、跡を追ううち、彼女の二重、三重生活を知る。彼女は名前、化粧、嗜好までも替えていた。茫然とする春海の前に既に死体となったルームメイトが…。

【ひとこと抜き出すなら】
わたしより、あの子の方が大切なのよ

【感想】
正直に言います。
多重人格モノがそうるは好きです。
一つの体の中に複数人が混在していて、強弱があってそれぞれの人格の人生がある。
それってどんな感覚なんだろう、ってとても思います。
一つの人格にとっては、普通の人生の長さと比べたらその人格が主導権を握っている
何分の一かしか(長さとしては)生きていないことになるけど、
それってしっかり一生分を生きてる感覚があるのだろうか、とか。

まあ、このお話の多重人格のトリックは最後の最後にドッキリさせるためのものなので
多くを書いてはいけないと思うのですが、
これまでに幾つか読んできた多重人格モノにはない、新しい一面を考えさせられた作品でした。

で、話を少し変えて。
恋をした時。
人は、自分より相手の方が大切だとさえ思うことができる。
その思いの強さが、度々恋愛を主軸とした物語で多く語られてきたと思うのですが。
多重人格者にとって、「自分の人格」と、「一つの肉体を分け合う他の人格者たち」は、同じ「自分」でもなければ、「他人」でもない。自分のエゴのためだけに犠牲にできる程「自分」でもなければ、無関心を装える「他人」でも無い。
でも、多重人格者の人格一つひとつだって恋をするし、全くの他人を好きになったりする。

そういう時に、多重人格者の「大切な人」ランキングはどういう風に番付けされるのだろう。

大切な人にランキングを付けることがどれだけナンセンスなことなのか、実生活でも作り話の中でも嫌という程思い知ってきたはずなのに、それでも恋をするとどんな人格の人でも、好きな人の1番でなければ我慢できなくなるらしいから。

「好きな人」のために「自分」をおざなりにすることができても、その自分と一つの肉体を分け合っている以上それは「別の人格の自分」をおざなりに扱うこととイコールになってしまう。


そうるは多重人格者じゃないし、想像するしかないから答えは出ないのだけれど。
人が一人じゃ寂しくて、耐えられなくて生みだしたのが別の人格であるなら、どうしたってやっぱり、他の人格は「自分」と同じくらい大切で、「自分」と同じくらいキライなんだろうと思う。


2010/03/21

「赤い指」@東野圭吾

こんにちは。そうるです。
週末の更新が日課みたいになってきました。
本の感想なんて、読後いつまでも覚えていられるものじゃないので、こうして
記録したものを未来の自分が読んだら、おもしろいだろうなぁと思ったりしてます。

さて。

「赤い指」@東野圭吾


【あらすじ】(アマゾンより)
少女の遺体が住宅街で発見された。捜査上に浮かんだ平凡な家族。一体どんな悪夢が彼等を狂わせたのか。「この家には、隠されている真実がある。それはこの家の中で、彼等自身の手によって明かされなければならない」。刑事・加賀恭一郎の謎めいた言葉の意味は?家族のあり方を問う直木賞受賞後第一作。

【ひとこと抜き出すなら】
心の防波堤は壊れていた

【感想】
こんな家族いやだ。
読みながら、ずっと思っていました。
息子は引きこもり、妻は息子を怖がりつつも溺愛して大切なものを見失っている。そして主人公の夫は、その2人に強く出ることも、頼られることも認めてもらうこともない。さらに、そんな情けない主人公とともに暮らさなければならない祖母。

正当でまっとうで、「あるべき」姿から遠ざかってしまったいびつな家族。でも同時に、これに似た家族を築いてしまった人が、今の日本にはたくさんいるのではないかと思ったらゾっとしました。
大昔から、人間は当然のことのように結婚し、子供を産んで家族となり、社会を形成してきた。それは確かに簡単なことではないだろうし、誰もが自分の力の限りを尽くして取り組まなければならない事柄だと思うけれと、同時にそうしさえすれば(本気になりさえすれば)ほぼ多くの人が、多くの人の協力のもとに、なんとかこなすことができたことだ。

なのにどうして、今、こんなにもうまく家族を構築できない人が増えてしまったのだろう。
家族、っていう社会の最小構成単位がうまく出来上がっていなかったら、その上に立つ学校も職場も地域も、ひいては国も、うまくできあがるはずがない。

立派な学校に行かなくてもいい。高給取りにならなくてもいい。いじめのある学校に行ったっていい。わざわざ手を尽くして、社会の暗い部分を見ないで子供が育ってしまったら、大きくなって、それらを理解できない、視野の狭い子供になってしまうんじゃないだろうか。
ちゃんと、その子が生きている社会や自然の空気を、偏ることなく、ちゃんと平等に濃縮したところで育てたい。そしてその中から、自分は何が好きで、何を学び、将来何を糧にしたいのか。自身で取捨選択してほしい。

まあまだ子供なんて産んだことない、20代前半のそうるだけど、ふとそんなことを思った本です。


抜き出した一言は、主人公の夫が妻に負け、子供可愛さに明らかに歪んだことに手を染めようとしたとき。
まっとうな感情と理性を持っていればとうていできないようなことをしでかそうとした最後の瞬間に、
「できない」と膝を折る瞬間の描写です。

歪な社会を構築してしまったとしても、その社会は構成員の心の歪さが掛け合わさって歪みを増長させてしまっているだけであって、1人1人の精神がその歪さを背負いこめるわけはないのです。
多くの部分が真っ当な精神でつくられていた主人子は、歪な結末を受け入れることができなかった。

歪か、真っ当か。

究極の二択を迫られたときに、常に良心が命じる方を選べるように。
自分のポジティブな心が望む方を選べるように。
正しいと、胸を張れる結末を呼べるように。



頭がいい人より、優しい人より、笑顔が素敵な人より。
精神が健康で元気な人。

これから日本が求める人は、そういう人だと思うんだ。




- - - ⇒同じ作家の別の本

「天使の耳」
「ウインクで乾杯」
「さまよう刃」
「11文字の殺人」
「秘密」


2010/03/13

「ダブルファンタジー」@村山由佳

こんにちは。そうるです。
満を持して、最近一番泣いてしまった本の紹介です。

「ダブルファンタジー」@村山由佳



【あらすじ】(アマゾンより)
奈津・三十五歳、脚本家。尊敬する男に誘われ、家を飛び出す。“外の世界”に出て初めてわかった男の嘘、夫の支配欲、そして抑圧されていた自らの性欲の強さ―。もう後戻りはしない。女としてまだ間に合う間に、この先どれだけ身も心も燃やし尽くせる相手に出会えるだろう。何回、脳みそまで蕩けるセックスができるだろう。そのためなら―そのためだけにでも、誰を裏切ろうが、傷つけようがかまわない。「そのかわり、結果はすべて自分で引き受けてみせる」。

【一言抜き出すなら】
でかした!!

【感想】
泣きました。
セックスの描写は濃厚で、でも終始女性視点で、本人はどれだけの人と寝ようが全然悪いとは思っていなくて。
でも、夫を捨てて家を出奔するシーンで、主人公の奈津に感情移入して、泣きました。
もう夫への愛は冷めてて、情しか残ってなくて。でも夫で、自分のことを大切に思ってくれてて。
でも、愛が冷めて、女としても、脚本家としてもこの男と一緒にいたらだめだとしか思えなかったら、もう出ていくしかなくて。

どれだけでも奈津の方が悪くて、自分ばっかりで、夫に何かしらの裏切りの事実があるわけでもなんでもないのに、丁寧に描かれた奈津の心情にシンクロしてしまいました。
ちょっとでも自分の力で立とう、さらに上に行こう、って思ってる人。つまり全ての女の人は、奈津なんじゃないかと思う。
内助の功って言うけど、妻が夫を支えるっていうけど、そんなのは前時代的で、このご時世、2人とも立ちながらどれだけお互いに立ち支えられるかなんだから、女だって、「自分にはこの人じゃだめだ」って思ったら、自分の未来のためだけに出奔したくなって当然だと思う。
こういう風に夫を捨てたいわけじゃないけど、これくらいちゃんと、自分の未来を大切にして生きていきたいなぁって思う。

ついでに抜き出した「でかした!」って言うのは、
主人公の奈津が夫を捨てて家を飛びだして、その足で別の男(業界で名のある魅力的な男)と不倫したことを女友達に報告した時の、その女友達の反応。
けなすもんか、幻滅するものか、手を叩いて褒め称えなくてどうする。
だってそれは、奈津が「現状を失いたくない守り」ではなくて、「これからの自分のために最善だと思ったと」をちゃんと実行したってことなんだから。

余談ですが、【あらすじ】として紹介した文章も好きです。
「すべて自分で引き受けてみせる」って、どれだけ強い言葉だろう、って思う。

ここ最近のイチオシです。
あぁ、社会とか自立とかどろどろした恋愛に、感情移入できる年齢になってしまった。


天使の耳@東野圭吾

こんにちは。
お母さんから大量に借りた東野圭吾も、やっと最後の1冊です。
今回は珍しく短編集。
短編集って、どうしても緊張が1冊続かないからか苦手で、借りでもしないと読まないので
珍しい機会なんですが。

「天使の耳」@東野圭吾



【あらすじ】(アマゾンより)
天使の耳をもつ美少女が兄の死亡事故を解明。

深夜の交差点で衝突事故が発生。信号を無視したのはどちらの車か!?死んだドライバーの妹が同乗していたが、少女は目が不自由だった。しかし、彼女は交通警察官も経験したことがないような驚くべく方法で兄の正当性を証明した。日常起こりうる交通事故がもたらす人々の運命の急転を活写した連作ミステリー。

【一言抜き出すなら】
法律ほんの少し何かがズレるだけで、敵にも味方にもなる。彼女は自分の身を投げ出して、その分離帯を越えたのだ。

【感想】
東野圭吾はプロだ。
それが、この本を通して読んだ、私真っ先の感想でした。
こんなこと、誰だって今さらだよって思うと思うのですが。
小説を書くって、好きでしている人が何人もいると思うんです。
趣味とか、投稿の範囲まで数えたらそれこそびっくりするくらいの数の人が、自分だけの物語を創っていると思う。
でも、プロってそうやって、自分の物語を創れるだけじゃだめで。
どんな題材でもちゃんと物語れる。どんな題材でも、自分の中に情報を溜めて、咀嚼して、消化して、蒸留して、この角度だっていう物語の骨組みを組んで、その上に最初に溜めた情報を肉付けして創る。
好きなジャンルとか、好きな傾向に偏らず、どんな題材でもエンターテイメント性ある(つまり魅力のある)
作品に仕上げることができる東野圭吾は、プロだ、と思いました。

「白夜行」のような、押し殺した感情の行きつく徹底したシリアスも書ける。
「容疑者Xの献身」のような、大衆的なミステリーに人情を存分に加味したものも書ける。
「秘密」のような、非日常のSFの世界と、だからこそ個人の感情やウっ屈を存分に魅せるものも書ける。
そしてこの「天使の耳」は、短編6編を全て読者がとっても身近に感じる警察である、「交通警察」を題材にしてひと癖ふた癖あるストーリーに仕立て上げている。

プロだ。

1つ1つの作品は、正直「墓まで持っていきたい」ほど好きではないけれど、東野圭吾はまちかいなく、現代を代表する商業的プロの小説家だと思う。

「創作する分野でのプロ」ってものを、私は本当に尊敬する。



- - - ⇒同じ作家の別の本
「ウインクで乾杯」@東野圭吾
「さまよう刃」@東野圭吾
「11文字の殺人」@東野圭吾
「秘密」@東野圭吾

プリズム@貫井徳郎

こんにちは。そうるです。
さて、再びの貫井さんブームが来たようで、早速2冊目です。
今回は、「小説」という表現手法をとてつもなく魅力的に扱った作品だと思います。

こちら。

「プリズム」@貫井徳郎



【あらすじ】(アマゾンより)
小学校の女性教師が自宅で死体となって発見された。彼女の同僚が容疑者として浮かび上がり、事件は容易に解決を迎えるかと思われたが……。万華鏡の如く変化する事件の様相、幾重にも繰り返される推理の構築と崩壊。究極の推理ゲームの果てに広がる瞠目の地平とは?『慟哭』の作者が本格ミステリの極限に挑んで話題を呼んだ衝撃の問題作。

【一言抜き出すなら】
好きだった先生が殺された夜でも、ふだんと変わりなく眠くなるのが不思議だった。

【感想】
この本は、本当に推理「ゲーム」です。
推理することを楽しむ本。
推理することがメインすぎて、誰が犯人でもどうでもよくなってしまった本です。

主人公は、(一応)小学生の男の子。
担任の女の先生が死んでしまって、その事件の真相を確かめようとクラスメイトと探偵じみたことをするのですがそれはあくまで子供の好奇心の一部。個人的な怨恨や損得が絡んでいるわけではないから、子供たちは推理にのめりこみつつ、どこか事件に対しては冷めています。
それは、生死の概念が薄いことも相まって、時に酷薄な印象を与えます。
それが、抜き出した一文です。
愛していた人でも、殺したいほど憎んでいた人でもない、ただ「好きだった先生」が突然死んでしまって、「死」って理不尽なんだとはじめて実感した子供の、単純な夜。生死について考え込むことも、犯人を恨むこともない。

貫井さんの描く子供は、私の理想的な子供です。
社会に染まらず、自分の感情をすべての物差しとして動く子供。
それでいて、すべてにおいて諦めず、なんとかして希望の結果を表わそうと持てる全ての力を現実に費やす子供。

こんな風に生きられたら、と思います。
社会なんて、世間体なんて関係ないと。
私はこうしたいんだと、体を動かせるようになりたい。
自分に何ができてできないのか、できることを正確に把握し、その中で精いっぱいにもがきたい。


こどもでいたい。
誰だっけ、諦めるのが大人のすることだなんて、やけにかっこよくウンチクたれてたヤツ。




- - -⇒同じ作家の別の本
「失踪症候群」@貫井徳郎

失踪症候群@貫井徳郎

お久しぶりです。そうるです。
またしても既読書をためこんでしまいしまた…

さて最近読み終わったのがこちら。

「失踪症候群」@貫井徳郎




【あらすじ】(アマゾンより)
「真梨子が緊急入院したのよ、自殺未遂かもしれないって…」 原田は呼んでも一向に応えない娘に強く語りかけた。何でこんなことを…。ミステリファン待望の長篇・第3作。

【ひとこと抜き出すなら】
親からは逃げられても、自分の人生から逃げることできません。

【感想】
貫井さんを読んだのは久しぶりです。
以前にも私の中でブームが来ていた時期があって多く読んだのですが、どれもこれもヘビーな内容なので、すべての既刊本を読破する前に疲れてしまった覚えがあります。

鬱やドラッグや、世間や親や学歴や学校や。今の日本に生きていれば誰もが必ず持ってる社会との軋轢を、どうしても過重に感じ、溺れ、このままでは埒が明かなくなってしまった人が貫井さんの話には多く登場します。
そんな人たちに半ば同調しつつ、このようにはなりたくないとも思いつつ、けれど充分に感情移入してしまいつつ読むのが、私にとっての貫井さんです。

さて今回は、互いの戸籍を取りかえることで社会からの開放を図った20歳前後の若者たちと、別件の事件が絡んで不思議な話を作り出しています。
別件の事件は解決するのですが、多くの戸籍を取り替えてしまった人たちを目にして、主人公の警官は上記のような科白で締めくくります。

はっと、同世代の私としては身につまされる思いがした科白です。
家族や、学校や、塾なんてものはともすれば自分で選んだものではないかもしれない。親に与えられたものや、最初から身の周りにあったものかもしれない。それらからストレスを与えられ、自分が自分らしくいられないことは確かに理不尽と感じるだろうし、捨てたいとも思うだろう。
けどそうして捨てた後の(戸籍を取り替えた後の)人生は、今度こそ自分で引き受けるしかない。
どのような職に就こうと、どんな上司がいようと誰と結婚しようとどんな子供が生まれようと、それは自分が取捨選択して歩いてきた道で、思い通りにいかなかったからってまた簡単に「取り替える」わけになんていかない。

社会人1年目として、これまでのしがらみとか親とかほとんど関係なく、自分の力でなんとか自立ってもんをしていかないといけないんだとそろそろ実感して不安になったりもしているこのごろ。

「自分の人生からは逃げられない」という一言は、あまりに当然すぎる一言とはいえ、誰も私を肩代わりしたり、別の自分を差し出してくれたりするわけではないのだと思い知った次第です。

…だから、やれるだけのことをやらなきゃいけないんだよね。

 

2010/02/21

ウインクで乾杯@東野圭吾

こんにちは、そうるです。

さくっと要旨だけまとめて短文で言いたいことを伝えられる文章に憧れます。
まあ、そんなことを気にせずに書きたいことを書きたいだけ書いた文章というのが書き手にとっては心地よいのが事実なんですけど。

さて、またしてもこの人。


「ウインクで乾杯」@東野圭吾




【あらすじ】(アマゾンより)
パーティ・コンパニオン小田香子は恐怖のあまり声も出なかった。仕事先のホテルの客室で、同僚牧村絵里が、毒入りビールを飲んで死んでいた。現場は完全な密室、警察は自殺だというが…。やがて絵里の親友由加利が自室で扼殺され、香子にまで見えざる魔の手が迫ってきた…。誰が、なぜ、何のために…。ミステリー界の若き旗手が放つ長編本格推理の傑作。

【ひとこと抜き出すなら】
あたし、全然疲れないわよ。だって玉の輿に乗るためだもの。どんな苦労だって平気。

【感想】
殺した人の心情が入ってこないミステリーで、すごい軽いタッチでした。
ミステリー!!って思って読んだら拍子抜けするんじゃないかな…

登場人物は代わりにすごく魅力的で、これシリーズもんなんじゃないかと一瞬思ったほどです。
さて抜き出したひとことも、本筋とはほとんど関係ないひとこと。
こんなに自分をひたむきにできる夢があったらいいなあーっと思っただけです。
たとえそれが「玉の輿」っていう、ちょっと社会的に不純なものでも、そしてその夢を、親しい中の相手にとはいえ、こんなに堂々と言えるっていうのはかっこいいなぁと思いました。

そうるも、自分のやりたいことが「実を結ばないかもしれないし」とか思って怖がって、今すごい普通に社会人で平日は仕事行って、休日は予定が合えば彼氏とデートして…っていう生活を送っていますが、そんな日常なんか吹き飛ばして、全部懸けて夢に向かうだけの根性があればなぁ…って思ってるんです。実は。

…でもこわい。1人暮らしだし、ちゃんとした生活したいし、彼氏に会いたいし、言い訳だってわかってるけど。むーん。

今回はちょっと短め。






- - - ⇒同じ作家の別の本
「さまよう刃」@東野圭吾
「11文字の殺人」@東野圭吾
「秘密」@東野圭吾

さまよう刃@東野圭吾

こんにちは、そうるです。
週末更新2冊目です。
…つい一つの記事を長く書いてしまう性質(タチ)なので、溜めるのはよくないなぁと痛感。

さて、今回はまたしてもこの人。


「さまよう刃」@東野圭吾



【あらすじ】(アマゾンより)
自分の子供が殺されたら、あなたは復讐しますか?
長峰重樹の娘、絵摩の死体が荒川の下流で発見される。犯人を告げる一本の密告電話が長峰の元に入った。それを聞いた長峰は半信半疑のまま、娘の復讐に動き出す――。遺族の復讐と少年犯罪をテーマにした問題作。

【ひとこと抜き出すなら】
どんな理由があろうとも、人殺しなんかしちゃいけない。それはわかっています。許されることじゃない。

【感想】
一気に読んでしまいました。
1人娘を殺されたお父さんが、もう奥さんも昔に死んでしまってて他に家族もいなくて、娘を殺した若者2人のうち1人を殺し、もう1人を探しに行く話です。
被害者でもあり加害者でもあるこのお父さんが主人公で、なんとしてでも「自分の手でかたきを討つ」の執念で変装し、隠れ、あてのない捜索をする話なのですが。
題材として今の日本の警察やメディアの姿勢やら少年法の意義なんてものが絡んできて、お父さんの行動が日本中の注目の的になってしまいます。
別にまわりがなんやらかんやら言っててもいいんです。小説の題材が犯罪の周囲のことにあるのなら、それをどれだけ丁寧に書いたっていい。
でも、メインはお父さんの気持ちです。抜き出した言葉の通り、殺人はだめだってわかってて、してはいけないことだって分かってて、でも殺さずに黙って何もしないなんて耐えられない遺族の気持ちと行動です。それは、すごく個人的なもので、勝手な気持ちで、ただ悲しくて悔しくて許せないから、殺したくて若者を追ってるって設定にしてほしかったな、というのが唯一の惜しいところです。
私の勝手な感想なのであれてすが、
「警察に任せられないから」「今の少年法が若者をしっかりと裁いてくれる、適量な罰を与えてくれるとは思えないから」だから、若者を追うんだとお父さんは作中で何度も言っています。
その科白に、違和感を感じてしまいました。

少年法で守られようが、罰が少なかろうが、それがこの国が定める「適量な罰」なのです。でもじゃあ、法律で死刑になるって分かり切ってたら、お父さんは黙って待ってたのでしうか。警察が若者を捕まえるまで、その日ひたすら楽しみにただ何もしないで待ってたでしょうか。
そうじゃないと思うんです。
結局、自分が自分の手でなにかしらの仕返しをしたくて、動き出すんじゃないかな、と思うんです。
それが、単独での仕返しか、警察に助力するかの違いになるだけで。
この登場人物のお父さんが、性格や境遇を考えても、ただ黙ってるだけなんてそぐわない。
だから、ひとことだけ。
少年法とか関係ない、死刑にならないとか関係なく、自分の手で殺したいってそう思うんです。と、
言ってほしかったなぁと思います。


…エゴでまみれた愛が、いちばんキレイだと思う私の偏見ですが。




- - - ⇒同じ作家の別の本
「11文字の殺人」@東野圭吾
「秘密」@東野圭吾

しにがみのバラッド。@ハセガワケイスケ

こんにちは、そうるです。
この週末はずっと37度くらいの微熱があって、ずっとお家にいました…
ひきこもりで、ハードディスクに溜めてたアニメ見てたりとかミクシィアプリ見てたりとかしてましたが、体調はあまり良くならず(泣)

明日からはまた会社で、悪化しないようにかんばりたいと思います。
体調悪いと、通勤中に本を読んでいると酔ってきちゃうのですが、それはそれで自分の体調のパロメータだと思うので(元気だといくらでも読める)気をつけて読みたいと思います!!


さて、今日はここ最近読み終わっても更新をさぼっていたのでまとめてやりますぞー


「しにがみのバラッド」@ハセガワケイスケ




はじめてのライトノベルですね。私自身はあんまりライトノベルは好きじゃないのですが、ハタチ越えてる弟が大好きですんごい「ラノベ(ライトノベル)はイイんだ」と主張するので、読まずに退けるのもいかがかと思い、たまに読んでます。(売れてそうなのをチョイスします。どうせならおもしろいのを読みたい!)


【あらすじ】(アマゾンより)
目を覚ますと、少女は死神でした。その少女は、死神でありながら、その真っ白な容姿ゆえに仲間から「変わり者」と呼ばれていました。しかし、少女の持つ巨大な鈍色の鎌は、まさしく死の番人のものです。少女の使命は人間の命を運ぶこと。死を司る黒き使者である少女は、仕え魔のダニエルと共に、人の魂を奪いにいくのです。死を司る少女は、様々な人と出会い、そして別れていきます。哀しくて、やさしいお話。

【ひとこと抜き出すなら】
「おまえは今回のリストに入ってないよ」

【感想】
正直に言って。
私はライトノベルより普通の小説の方が好きです。
まぁ嫌いではないし最後まで読んだのですが、特に何かを「得た」感じがなく、
一般的に小説すべてがそうだと言えばそれまでなんですが、でもやっぱり、「娯楽」だな、と。
…まあいいや。
抜き出したのは、自殺願望のある少年に、死神の使い魔が言った一言。
「おまえは、まだ死ねないんだよ」と。
これ、扱っている題材が「死」なので、まだ死なないというのは良いことなんだろうとは思いますが、これがもし「死」ではなかったらと思うと、すごく残酷な一言だな、と。
仮に登場人物が画家になりたいとか昇進して課長になりたいとか思って頑張っている時にふと突然現れた得体のしれない存在が、なんか人の運命みたいなものを知っている超越した存在で。
「おまえはなれないよ、無理だよ」とか言ってくれちゃったりとかしたら、すごくすごくショックで、1年は立ち直れない気がします。
それが「夢」なら尚更。
神のような存在ってこういう作り話だとすごくよく出てきますが、本当の神様ならまだしも、こういう人とほとんど変わらない、お友達感覚の存在からこんなこと言われたら、なんかもうすべてを投げ出して死にたくなってしまうと思う。
「おまえ人間じゃないからそんな残酷なこと言えるんだよ」って思うし
「運命とか信じてないから」とも思う。

ほぼ実らない確率の方が高いと思い知らされた後、果たして人って、私だったらとしたら、「限界までがんばることに意味があるんだ」と自分を鼓舞しなおして、再びその道でがんばることができるもんなんだろうか。

…ふと、そんなことを考えた本。


2010/02/07

11文字の殺人@東野圭吾

こんにちは。そうるです。
せっかくの日曜日ですが、作業が残っているので私服で会社に来ています。
しかし全然やる気が出ない…明日はもう月曜日だし、早く終わらせて早く帰らなくちゃ、とは
思っているんですけどね…(笑)

さてこんな感じで昨日も会社に来ていたので、「通勤読書」は止まりません。
今回は、「11文字の殺人」@東野圭吾 です。

お母さんがミーハーで、東野圭吾の本ばかり「お勧め♪」とか言いながら突き付けてくるので、
暫く、本来のそうるの趣味からはずれた読書が続きそうです。
まあ、ちょっとばかし趣味じゃなくてなんとなく読んでいる方が、
客観的にもなれるし電車も降り過ごさないし、感想も書きやすいんですけれども。

さてそんなわけで、


「11文字の殺人」@東野圭吾




【あらすじ】
「気が小さいのさ」あたしが覚えている彼の最後の言葉だ。あたしの恋人が殺された。彼は最近「狙われている」と怯えていた。そして、彼の遺品の中から、大切な資料が盗まれた。女流推理作家のあたしは、編集者の冬子とともに真相を追う。しかし彼を接点に、次々と人が殺されて…。サスペンス溢れる本格推理力作。

【ひとこと抜き出すなら】
「女性問題では困らされることも多いけれど、いざという時に命賭けの仕事をできるバイタリティをあたしは愛したのだ」

【感想】
もともとあまりミステリとか推理小説のファンではないので、正直に言うとあまり好みではありませんでした。
登場人物が10人以上あれやこれやと出てきてしまうと、誰が誰なのかごちゃごちゃになってしまうという、私の読書力のなさ(だからミステリがあまり好きではない)が完全に裏目に出ました。
なんとかストーリーを追っていくだけで精一杯で、細部の趣向やアリバイのち密さをほとんど読み込むことができませんでした。でも、2読する気にもなれないので、このまま感想を書いてしまおうと思います。
まぁ、確かに結末は「あれ」と思わず手を止めたくらいには意外でしたが。

それより、私が唸ったのは、抜き出した一言です。
これは、犯人の動機に繋がる大事な一言なのですが、事件の内容とか動機とかはどうでもよく、この科白そのものにすごく力があるな、と。

だってこんな科白、女性の方が自分の仕事に自信とプライドを持って、相手の男性のことを、一人の人間とか異性とかだけではなく、「一人のビジネスマン」として対等に見ていないと言えない。
寧ろ、女性問題で困らされるなんて、「異性」とか「彼氏」として付き合うには完全にアウトであるはずなのに、その大きな問題をカバーできるくらい「愛すべきビジネスマン的バイタリティ」があるなんて。

よく、「仕事仲間は恋愛対象に見られない」という話を聞きます。どれだけ仕事人として一人前でかっこよくて頼りになっても、それと「性的魅力」や「生涯の伴侶としての魅力」は別モノだというわけで、その弁を支持する人が多いことは事実です。
でも現実に社内恋愛して結婚する人だって大勢いるわけで、恋愛可不可の線引きは人それぞれだし、どんな関係性のある相手だって、好きになってしまったら理屈なんて関係ない、ともよく言われる言葉ですが。

でもこの科白の主は、逆に社内恋愛しかできないんじゃないか、と思わせられます。
男として、パ―トナーとして失格でも、「仕事に命を賭けられるバイタリティ」を愛しているから構わないだなんて。
「好き」なら他は見えなくなってしまうものだとはいえ、「男として」より「社会人として」の愛が優先されるような愛し方なんてあるのだな、と目から鱗が落ちた気分です。

…自分に、そんな恋愛ができる気はさらさらありませんし、おそらく社会的にもマイノリティだとは思いますが。でも小説の中では、どんな嗜好だって描けます。
ストーリーそのものは好みでなくても、やはり東野さんは数をこなす職業小説家で、手持ちの世界の幅が広いんだな、と痛感し納得した次第です。




- - - ⇒ 同じ作家の別の本 の記事は此方
 ・「秘密」@東野圭吾


2010/02/06

頼子のために@法月綸太郎

こんばんは、そうるです。
金曜日に飲んで終電で帰ってきて、軽くシャワーを浴びて落ち着いたらこんな時間になってしまいました。
…終電って、本当に遅くなってしまいます。
まぁ、「終わりの電車」なんだから当然ですけど。
ちなみに今日は終電が乗り継ぎの関係で15分ほど遅れてきたので、最寄り駅に着いたらもう1時半近かったです。…ほんとに遅い。

さてついさっき、そんな終電で読み終わったのがこちらです。

「頼子のために」@法月綸太郎



【あらすじ】
「頼子が死んだ」。17歳の愛娘を殺された父親は、通り魔事件で片づけようとする警察に疑念を抱き、ひそかに犯人をつきとめて相手を刺殺、自らは死を選ぶ──という手記を残していた。手記を読んだ名探偵法月綸太郎が、事件の真相解明にのりだすと、やがて驚愕の展開が!精緻構成が冴える野心作。

【ひとこと抜き出すなら】
――私は自分のことを観念の化け物だと思っています。

【感想】
観念。
「プラトンに由来する語「イデア」の近世哲学以降の用法に対する訳語で、何かあるものに関するひとまとまりの意識内容のこと。元来は仏教用語。 - - Wikipedia」
ということで、何かあるものに対する個人の主観的な考えのこと、と捉えていいようです。
観念の化け物。この言葉の意味はこの本を最後まで読めば自ずと知れてくるのですが(ストーリー的に最大のキーになる科白なので)、この本を読んでいない状態でこの「観念の化け物」という言葉に出会ったとしたら、どういった印象を受けるだろう、とふと思いました。
この科白を吐いた登場人物は下半身が不自由で、ベッドの上での生活を余儀なくされています。
もしそういった状態になったとしたら、自分で歩くことができなくて、本当に小さな世界のことしかわからなくなって、世間的な常識とか客観的なこととかの比重が、きっとどんどん自分の中では小さくなっていくのではないか、という気がします。そうして、ベッドの上でアテなく考えているさまざまなことに思考が支配されて、それが妄想であれなにがしかの論理であれ、その思考が一般的にはどのような形で受け入れられるものなのかということなどには興味を示せなくなって、ただただ「自分がどう思うか、どう感じるか」といった一点のみが重要になってくるのではないか。
その状態をひとことで表した語句が「観念の化け物」なのではないか、と。

化け物だということは、もう観念でしかない存在で、自分の思考が何よりも大切で。それが他者にどんな影響を与えるのか、なんて、言いすぎれば「どうでもいい」わけで。
そんな、思考能力だけは成熟した大人のくせに、その回路が傍若無人で我儘なガキと同等になってしまった救いようのないこの科白の主に、でも何故か同情するし哀れに思えてしまう。

それは、下半身不随、という設定のためだけではなくて。
風邪を引いて寝込んだり入院してひとりきりだったり、誰にでも大なり小なりある不自由な時間を持て余したときに、覚えのある感情だからなのではないかと思う。

ネガティブなことを考えだしたら止まらなくて、自分で生み出したその思考に囚われて、自由の利かない体にいらついて、周囲の人の優しさまで根拠なく疑ってしまったりして。

観念。

定義の難しい言葉だけれど、こうして考えてみて、ちょっと飛躍するけれども、
ああ人間だなあ、なんて。

そんなことをふと思った真冬の夜さがり。


2010/02/03

向日葵の咲かない夏@道尾秀介

こんばんは、そうるです。
すっかりめっきり寒くなって、最寄り駅に着いた瞬間、電車の外に出るのが億劫で仕方ありません。
小説のストーリーが、むちゃむちゃ「イイトコロ」だと尚更です。
まあ、降り過ごすわけにはいかないので渋々降りるわけですが。
…決められた時間以上にずるずると読書してしまわないのが、通勤読書のイイトコロだと思います。
お風呂入りながら読もうものなら、読み終わるまで入ってて、逆に体冷え切ったりしてむちゃむちゃ後悔しますからね…。

さて、今日読み終わったのは
「向日葵の咲かない夏」@道尾秀介




【あらすじ】
夏休みを迎える終業式の日。先生に頼まれ、欠席した級友の家を訪れた。きい、きい。妙な音が聞こえる。S君は首を吊って死んでいた。だがその衝撃もつかの間、彼の死体は忽然と消えてしまう。一週間後、S君はあるものに姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」と訴えながら。僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため、事件を追いはじめた。あなたの目の前に広がる、もう一つの夏休み。

【ひとこと抜き出すなら】
物語をつくるのなら、もっと本気でやらなくちゃ

【感想】
物語っていうのは、小説とかドラマとか大層なものじゃなくて、
「自分が信じて見ているもの」と、「実際の世界」との整合性をどれだけ保つか、ということだと思う。
客観的にはゆるぎない事実でも、それから眼を反らすのなら、いんなる理由であれ、それ相応の覚悟をしなければならない。
現実を見つめることは勇気がいることだ、とはよく言われるありふれた言葉だけれど、現実を見ない、というのもまたそれ相応の覚悟がいることなのだと思った。

例えば自分の心の平穏のために、「自分はクラスのリーダーで人気者だ」と信じる。そうでありたいと願い、そうでない自分は許せないから。たとえクラスのみんながどれだけ冷たい視線を自分に向けようと、クラス委員に誰も推薦してくれなくても、それでも現実を見ないで、「自分は人気者だ」と信じ、そうあろうとすることは、一見滑稽なようでいて、とても覚悟がいることだと思う。
「自分はこうなのだ」と、他の誰でもない、自分自身が誰よりも信じるのだから。

まぁ、実際の本編は、こんな難しい話じゃなくて、ちょっと不思議な小学生と、現実にはあり得ない設定が一つだけ紛れ込んだ夏休みと、友達の死体が作り出す摩訶不思議物語。…ホラーじゃないけどちょっと怖いです。

ミステリと呼ぶにもホラーと呼ぶにも、でも「一風変ってる」と付けた方が間違いない1冊。
私はすごくおもしろいと思ったけれど、人によって明暗が分かれそうな作品でもあるかな。