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2010/06/29

「長い腕」@川崎草志

 こんにちは、そうるです。
 起きたらものすっごい雨が降っていてびっくりしたんですが、家を出るころには止んでました…梅雨の天気って気分屋すぎる。猫みたいだな、とふと思い、そう思えば可愛い気がしないこともない…かなぁと思いました。
 寒い冬は嫌いですが、じめじめする梅雨も嫌いです。海に行きたい!!

 さて、今日はちょっと異色作。
「長い腕」@川崎草志


【あらすじ】(アマゾンより)
超一級の傑作サスペンス、誕生! 第21回横溝正史ミステリ大賞受賞作!!
東京近郊のゲーム制作会社で起った転落死亡事故と、四国の田舎町で発生した女子中学生による猟銃射殺事件。一見無関係に思えた二つの事件には、驚くべき共通点が隠されていた…。

【一言抜き出すなら】
 自分の持ち物は、シートを外した車の助手席に入れられる限りと決めている。

【感想】
 さて、お母さんに借りた本を雑食に読む日々が続いているので、必然的にミステリばかりなのですが、別にそうるは謎解きやトリックにはあまり興味がありません。
 ただ、ミステリはどうしても犯人や被害者の心情、人間らしさを綺麗にも汚くも書かなければならない分野だと思うので、面白いなぁと感じて読んでいます。自分の感情の機微とか人間としての醜さなんて、普段は意識して言語化したりしないで過ごしてるわけですから。
 で、今回の「長い腕」は、川崎さんのデビュー作です。デビュー作らしく、ところどころ日本語が読みづらかったり、展開が不必要にだらけている感がありますが、そういう「洗練されていない部分」があるからこそ親しみが持てるし、次世代の作家が「俺も俺も!!」って意気込むんだろうなあと思います。
 そんな、親しみが持てるミステリ「長い腕」の主人公である汐路の人間らしさを、最も端的に表していると思われる一文が上に抜き出したものです。
 別に川崎さんを非難するつもりは無いのですが、
 ・所有物が少ない
 ・生活感がない
 ・帰属意識が薄い
 ・恋愛に無関心
 ・小さくて細い
 ・性格が淡泊
 な女性と言えば、ふととある有名アニメの登場人物を思いだすのは私だけでしょうか…
 そうでなくても、なんだかあまり感情移入の出来ない、造り物で浮世離れした雰囲気を持ったキャラであることは間違いありません。
 そもそもそうるは、持っているダブルベッドだけで既に普通の自家用車には入りませんし、「物の少ない生活」、「所属組織を転々とする生活」に憧れは感じますが、現実的にそんなことはとてもできません。
 架空のキャラクターなので別にどのような人物でもいいのですが、アニメのキャラクター張りに実在感の無い設定である汐路(おそらく好みか憧れか、デビュー作のキャラクターとしてこの汐路を選んだからには、川崎さんにとって特別な設定なのだと思いますが。そこで、川崎さんがゲーム会社出身の業界人であることを加味すると、思い込みによる差別的発言になってしまうとは思うんですけども)を、こんなにも現実世界にいるかのように書き、殺人事件に紛れ込ますことに成功した、というのはある意味で成功なのかな、と感じました。
 ただ、行動の動機や思考のパターンなんかが、どうしても共感できないモノになっているところは溜息を吐いて見逃すしかないかな、と思います。エンターテイメントとしては、充分に面白かったのですけども。
 




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2010/06/28

「時生」@東野圭吾

こんにちは、そうるです。
久しぶりに、良い名前に出会いました。
息子に付けたい。そうでなければ、いつか創る物語の主人公に、この名前を使いたいと本気で思いました。

「時生」@東野圭吾


【あらすじ】(アマゾンより)
不治の病を患う息子に最期のときが訪れつつあるとき、宮本拓実は妻に、二十年以上前に出会った少年との想い出を語りはじめる。どうしようもない若者だった拓実は、「トキオ」と名乗る少年と共に、謎を残して消えた恋人・千鶴の行方を追った―。過去、現在、未来が交錯するベストセラー作家の集大成作品。

【一言抜き出すなら】
あの人の若気の至りを見るのは辛い

【感想】
 もし、自分が18で死ぬ体だったら。
 そうるはとっくに18を過ぎているから、もっと現実的に考えて、例えば、あと5年しか、3年しか、1年しか生きられないとしたら。
 何のために生きるだろう。
 最後の瞬間に、「生きて良かった」と笑うために生きるだろう、って気がする。
 そんな体に産んでごめんって両親に泣かれないために。
 こんな私でも、出会えてよかったっていろんな周りの人に思ってもらうために。

 けれどこの話はちょっとだけSFだから、死んだあと、時生の体は過去に流れて、若い青春しているお父さんと同じ時を生きることになる。未来で、自分の父になるお父さんは、今はまだ青くて、若くて、向こう見ずなことをたくさんしていて。
 そんな、「お父さん」らしくないお父さんと共に生きて、子供は何を思うだろう。例えば私だったら、若い、まだお父さんと出会う前の若いお母さんに会ったら、果たして友達になれるだろうか。
 私(子供)は、生まれてもあんまり生きずに死んでしまうって分かり切ってて、悲しませるって分かってるのに、お母さんにもお父さんにも、他の道がまだ残されている時に、私(子供)に至る道を、私はどう見つめるのだろう。
 生まれたい、と思うのだろうか。
 そしてそれを、自分は身勝手だと感じるだろうか。

 綺麗事でも、SFが入り混じった夢物語でもなんでも、この「時生」の中で、時生は後悔することなく、自分は幸せであり、家族は幸せであり、そこに至る道が「有るべき姿」「幸せの姿」だと望む。そこに不安や迷いは、驚くほどに少ない。

 人生には、様々な路がある。

 その時を、その瞬間を生きて生きて、人は今に、未来に辿り付く。

 その未来が、「あるべき」未来であるために。後悔しないために。幸せになるために。
 ひたすらに、生まれることが正しいと言い切れる時生をかっこいいと思うし、子供がこう感じてくれる親になりたいと思う。

そんなわけで、「時生」って良い名前だな、と思った。
 …ちなみに、女の子に付けたいNO1は「未駆」です。「未来を駆ける」。私って、ちょっとSFチックな名前が好きみたいです。




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「使命と魂のリミット」@東野圭吾

こんにちは、そうるです。
週末も明け、月曜日が始まりました。通勤読書用のストックがなくなってきたのに今日気付いて、週末にブックオフに行けば良かったと思う今日この頃です。

さて。

「使命と魂のリミット」@東野圭吾



【あらすじ】(アマゾンより)
心臓外科医を目指す夕紀は、誰にも言えないある目的を胸に秘めていた。その目的を果たすべき日に、手術室を前代未聞の危機が襲う! 大傑作長編サスペンス。

【一言抜き出すなら】
全力を尽くすか、何もしないか。その2つのことしか医師にはできない。

【感想】
研修医の夕紀と、その夕紀が抱く思惑。これが、この物語の主軸。
に対して、その夕紀の思惑に立ちはだかって壁の一つとなったり、また最後には大団円を連れてくる。それが、この物語の傍軸である、病院爆破を企む男の思惑。

どちらの物語も臨場感たっぷりに、夕紀にも男にも同情させて、いったいどうなるのかとはらはらどきどきさせる。けれど決して、「夕紀が主人公である」ことや、「物語のエンドが夕紀のためにある」ことは揺るがない。だから、東野圭吾の小説は分かりやすくて読みやすく、けれど有る程度複雑に絡み合っていて、読み手が読破の満足を得やすいのだと思う。
 そうるも、「ものすごく東野圭吾が好き」ってわけじゃないけど(たまにこの話は好きだ―っていうのもありますが、そういう大好き!って思える東野圭吾に出会うのは稀です。「白夜行」と「秘密」は好き。あと、エンターテイメントとして好きなのは「天空の蜂」かな。この作家の書いたものはどれも好き!って思えないあたりが、東野圭吾はプロなんだなあと感じられて逆に作家に好感が持てますが、作品をあまり愛せない、っていう感じです)


 さて、じゃあ医師じゃなくってただの営業である私は、「全力を尽くす」と「何もしない」以外の選択肢を勿論持っているわけです。「8割ぐらいで仕事して早く帰る」日もあるし、売上数字によってお客様に対する優先順位を付け、その順位が下位になっちゃうお客様には、5割くらいの力で仕事をしたりする。
 そのどちらが良いというわけではないし、職業の違いから仕方がないことだと思うのですが、「医者になりたい」というわけではなく、「全力で何かをしたい」と思うことはあります。
 別にそれは仕事でなくてもいいんですが、プライベートでその「全力投球」なものを見つけた場合には、仕事は、事務とかパートとか、絶対定時に帰れてプライベートを脅かさないものがベストなんだろうなぁと思います。
 今のところ、それが見つからなくてふらふらしている状態なので、適度に大変で適度にハイリターンな総合職で仕事をしてますけど。(そして8月からも同系統で転職しますけど)

 少しずつ、「自分にベストな働き方」を見つけたいと思います。「何がしたい」っていう明確な夢がなくて、「どういう生活したい」っていう夢も明確に描かないまま就職しちゃったから、いまだに社会人になってモラトリアムにいろいろ探してしまっているんだと思うと反省点も多々ありますが。
 まあ基本的にそうるは自分に肯定的なので、今のこの時間も「必要」なんだと割り切って、職を転ずる次第であります。

 しかし、こうやって何か書くのは好きだな。だからこうしてつらつらと幾つもブログやってるんだろうけど(笑)





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2010/06/21

「慟哭」@貫井徳郎

デビュー作を読むのが、あまり好きではありません。
「この人は最初からこんなに書けたのか」と感嘆する一方で、絶対に、
「私にはこんなのは書けない」と思ってしまうからです。
勿論どんな小説家も、デビューする前に何十作と習作を書いているのだと頭では分かっているのですが。


「慟哭」@貫井徳郎


【あらすじ】(アマゾンより)
連続する幼女誘事件の捜査が難航し、窮地に立たされる捜査一課長。若手キャリアの課長を巡って警察内部に不協和音が生じ、マスコミは彼の私生活をすっぱ抜く。こうした状況にあって、事態は新しい局面を迎えるが……。人は耐えがたい悲しみに慟哭する――新興宗教や現代の家族愛を題材に内奥の痛切な叫びを描破した、鮮烈デビュー作。


【一言抜き出すなら】
腐敗臭が彼を現実に立ち戻らせた

【感想】
小説の世界はノンフィクションじゃない。
ノンフィクションの世界(この現実)には、どんな理由があったとしても(復讐でも恨みでも天罰でも)人を殺しちゃだめ、という常識があります。
でも、そんなに簡単に「だめだからやらない」と割り切れるものでもない。
だからこそ、殺人を犯す犯人の苦悩を描き、つい同情してしまう作品はたくさんあると思います。
殺すことはだめだけど、でもどうしても殺したい主人公の気持ちが分かってしまう話。
(前にレビューした、東野圭吾の「さまよう刃」はまさにそういう作品です)

けれど、この主人公はただの殺人犯じゃない。
連続幼女誘拐事件の犯人で、誘拐した幼女は全て殺してしまっています。
日本中を震撼させる非道な殺人犯であるこの男を、同情することはできるのか。


…できてしまいました。
人間、大概の一般の人から「変質者」と評されたり、「殺人犯」としてラインを踏み越えちゃうようなところには、案外簡単に行けるものかもしれません。



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 ・「プリズム」@貫井徳郎 
 ・「失踪症候群」@貫井徳郎

2010/06/18

「誰か -Somebody-」@宮部みゆき

さて、時間があるので、読んでしまった分を纏めて書いてしまいたいと思います。
結構1冊分書くのに時間が必要みたいで、読書スピードに追いつけなかったりします。
…オンタイムにいけない子です(笑)


「誰か –Somebody-」@宮部みゆき



【あらすじ】(アマゾンより)
今多コンツェルン広報室の杉村三郎は、事故死した同社の運転手・梶田信夫の娘たちの相談を受ける。亡き父について本を書きたいという彼女らの思いにほだされ、一見普通な梶田の人生をたどり始めた三郎の前に、意外な情景が広がり始める―。稀代のストーリーテラーが丁寧に紡ぎだした、心揺るがすミステリー。

【一言抜き出すなら】
「杉村さんみたいな恵まれた人に、私の気持ちが分かるはず無いわ!」

【感想】
 宮部みゆきって、この手の話が多いような気がする。あんまり言うほど数を読んだことがあるわけじゃないけど、普通の人が、何らかの事件に接触して、巻き込まれて、その後自分の意思で更に首を突っ込んで、ああだこうだと騒いで、最終的になんとか「解決」ないし「落着」する、その紆余曲折を語るストーリー。
 今回も例に漏れず、財閥の一人娘に婿養子に入った主人公は、頼まれた面倒事を嫌がらずに引受け、依頼人と一緒になってああでもないこうでもないと思案し、果てには依頼人の姉妹の心情を慮って情報を故意に隠蔽したりして、あくまで「優しい良い人」として行動する。
 主人公は別に善意からやっているだけで、施しているつもりも優位に立っているつもりもないのに、結局最後に、依頼人であった姉妹の一人から、抜き出した一言を言われてしまう。

 そんなつもりはなかったのに。
 「恵まれた」ことを誇示しているつもりはなかったのに。
 勘違い甚だしいと言葉を尽くそうとしても、現にお金に困っていない温かな家庭を持つ主人公にしてみれば、返す言葉なんてない。
 努力は報われないこともある。優しさは伝わらないこともある。
 
 頭では分かっているつもりだし、実際にそうなって悔しい想いをしたこともあるけれど、いざフィクションのご都合主義の中でそれをやられてしまうと、いたたまれない気持ちでいっぱいになる。
 
 まあ、だからこそ「はっ」とさせられる一言だったわけだけれど。
 


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「重力ピエロ」@伊坂幸太郎

おはようございます。そうるです。
少し前に読んだものが溜まってきてしまいました。

さて、よく映画化される人気の伊坂幸太郎さんですが、遅まきながら、初めて読んでみました。


「重力ピエロ」@伊坂幸太郎


【あらすじ】(アマゾンより)
連続放火事件の現場に残された謎のグラフィティアート。無意味な言葉の羅列に見える落書きは、一体何を意味するのか?キーワードは、放火と落書きと遺伝子のルール。とある兄弟の物語。

【一言抜き出すなら】
 赤の他人が、父親面するんじゃねえよ

【感想】
 軽快なタッチだからか、謎が多くて且つ暗い過去のある登場人物が多く出てくる割に、すらすらと読み進めることができました。
 お母さんが、近所の強姦魔に襲われて、その結果できたのが自分。
 お母さんも、戸籍上のお父さんも、半分しか血の繋がらないお兄さんも、分け隔てなく自分を家族として見て、接してくれる。
 その状態で育った時、人はどれぐらいまっとうで、どれぐらい歪んでしまうのか。勿論、同じ境遇で育った人が皆同じように考えるわけではないだろうし、これはあくまで伊坂さんの考えた捻じれであり、執着であり、ゴールなんだと思うけれど。
 どうしても感情移入はできなかったけれど、家族として幸せで、不自由は無くて、でもそうやって最初の出自が少し歪んでしまうだけで、こんなにも普通で無いものを背負った人が出来てしまうんだな、と思いました。
 親とか子どもって、単純な構造なのに本当に難しい。
 抜き出した一言は、そうやって生まれてしまった自分(弟)が、最後の最後に自分の出自とかこだわりとか、憎しみとかに決着を付ける台詞です。
 ああ、伊坂さんは、この一言を言わせたかったんだろうな、って思った。それだけ、力のある言葉だと感じました。
 この一言のために書いた!!っていう言葉がある作品っていうのは、作者のこだわりとか執着とか、「何が書きたい、どういうシーンが書きたい」っていうのが分かりやすく伝わってくるので好きだな、と感じます。

2010/06/10

「ボトルネック」@米澤 穂信

こんばんわ、そうるです。
やっぱり、読み終わった後記憶で書くより、直後に本を手元に置いて書く方がしっくりきます。


「ボトルネック」@米澤 穂信



【あらすじ】(アマゾンより)
亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した…はずだった。ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。

【一言抜き出すなら】
羨ましいんだよ

【感想】
「羨ましい」という言葉が、こんなに切実な言葉だったとは思いませんでした。

「こうなれたらいいのに」「ああなりたかったのに」と思う理想、そしてそれを体現している「羨ましい」という感情は、誰でも誰か(親戚や友達、芸能人)に対して持つものだろうと思います。

でも本当にもこんなに、「この人になりたい」と思う感情、羨ましいという思いを、そうるはこの本で初めて知りました。

「自分がいない世界」を夢想したことは何人もいると思います。
でも、「自分の代わりに誰かがいる世界」を考えたことのある人は少ないんじぉないだろうか。

主人公は、偶然、自分が生まれる前に流産してしまった姉がいた。
たから、「自分がいない世界」=「姉が生まれ、自分が生まれなかった世界」というやや一般的でない夢想と理論が成り立ち、そして本当に、「自分の代わりに姉がいる世界」に飛んでしまった。



こんなに壊滅的に、こっぴどく、完全なまでに、「自分はいない方がよい人間である」ことを思い知らされる人は、たとえ物語の中の人であってもいないと思う。そうるは初めて見た。


彼が死にたいと言っても、生きたくないと言っても、私は止められない。


過去は変えられない。可能性を実際に比較することはできない。
自分は、自分のいない世界を見ることができない。
未来に何が起こるのか、分からない。

それは、どれだけ、どれだけ幸せなことだろうかと思う。
摂理が曲がること、それは、適応しない私たちが不幸せになること。


2010/06/09

「楽園 下」@宮部みゆき

こんにちは、そうるです。どうせなので一気に書いてしまいたいと思います。
「楽園」の下巻です。

書く前にふとアマゾンのレビューを読んだのですが、
どうしてああ皆さんは的確なレビューが短文でできるのでしょうか。。。
いつもアマゾンに投稿したいと思うのですが、ネタばれでも無い、私情でも無い的確で短文なレビューというものがどうしても書けずに戸惑います。

まあさておき。
「楽園 下」@宮部みゆき



【あらすじ】(アマゾンより)
ライター・滋子の許に舞い込んだ奇妙な依頼。その真偽を探るべく16年前の殺人事件を追う滋子の眼前に、驚愕の真実が露になる!

【一言抜き出すなら】
母親の勘、か。
はったりだった―――か。

【感想】

「勘だったんです」

何か素晴らしいことをした時。
褒められるようなことをした時に、とっさにこう切り返すことが、この先生涯で、私にできるだろうか。
できないだろうな、と思った。
だから物語の終末で、敏子がこう言った時、すごいと思った。

この人は背伸びをしない。
身の程をわきまえている。
本当に欲しいもの以外を中途半端に欲しがったりしない。
自分がどう動けば丸く収まるか、しっかりと考えている。
間違っても、勘で動く人間ではない。

かっこいい。


そして余談だけれど。
複数人の思惑をものの見事に描ききっていて圧巻なのだけれど、
でもやっぱり等の話と茜の話が同等に扱われていて、「じゃあ結局何が一番書きたかったのか」ということがそうるには分かることができない。
だからなのかアマゾンのレビューを読んでしまったからなのか、なんだかすごく書きにくい。

そして宮部みゆきの小説って大概そうだから、私は模倣犯も、全く筋を思い出せないのではないだろうか。
(良いとか悪いの話では無いのだけれど)

「楽園 上」@宮部みゆき

上下巻ものを久しぶりに読みました。
こんにちは、そうるです。

お母さんのお墨付きで読みだしたら、止まらなくなりました。
流石です。大家、という言葉を思い出しました。

「楽園 上」@宮部みゆき


【あらすじ(アマゾンより)】
未曾有の連続誘拐殺人事件(「模倣犯」事件)から9年。取材者として肉薄した前畑滋子は、未だ事件のダメージから立ち直れずにいた。そこに舞い込んだ、女性からの奇妙な依頼。12歳で亡くした息子、等が“超能力”を有していたのか、真実を知りたい、というのだ。かくして滋子の眼前に、16年前の少女殺人事件の光景が立ち現れた。

【一言抜き出すなら】
渡ってしまった。ルビコン河だ。

【感想】
まず、「ルビコン河」という単語を調べました。ウィキペディアで。
この単語は、作中突然登場したもので、何の脈絡もなく、けれど主人公の滋子が、滋子ににとって大きな意味のある一瞬に発したうめきでした。

中立の立場を守ろうとしていた。どっちに偏ってもいけないと思っていた。
あくまでそう求められており、自らもそうあろうとしていた。
けれど心の中では、こっちなんじゃないかという思いがむくむくと大きくなってきていて。
けれどいけない、そっちに流されちゃいけない、中立でなければならないと留まって。
そうこうしているうちに、何も考えずに感情が爆発した瞬間に、言ってしまった。
「私はこちらの味方をする。こっちが正しいと思う」と。

その時に渡ったのがルビコン河。
世界史の知識なんてものはそうるの頭の中から抜け落ちていて、
やっとこ知ったのは、紀元前のローマで、圧倒的な権威を誇っていた元老院の、
歴史と共にその威光が失墜した、その契機が「カエサルがルビコン河を渡ったこと」なんだということだ。
当時の権力関係も血筋も地理も何もかも疎くて、どうしてカエサルが河を渡ったくらいで元老院がなし崩しに弱くなってしまったのかはさっぱり分からないけれど、ともかく歴史的にとてつもなく大切な渡河だったということは分かった。
その後、一つの国の運命を左右させてしまうくらいには。

滋子は渡った。その後の人生を、事件の顛末を左右させてしまう契機を。だから、宮部みゆきは書いた。「ルビコン河を渡った」と。

話の内容は文句なくおもしろいし、ぐいぐい引き込まれる。けれど一番心に残ったのは、この「ルビコン河」だった。

そういう単語を、臆面なく、さらりと自然に使える人になりたい。
世間的にはちょっと間違っているかもしれないけれど、そうるにはそういう知識と使いどころの心得た人のことを、「教養がある人」というような気がする。


ついでに、この話は宮部みゆきの絶対的な代表作、「模倣犯」に繋がる話になっているわけだけれども(これだけ読んでも問題は無いけれど)。
そうるはせっかく模倣犯を読んだことがあるのに、この「楽園」を読んでも読んでもちっとも模倣犯の話の内容を思い出しませんでした。
もったいない。
すっごくおもしろかったことしか覚えてない。

そういう歯がみをしたくなるとやっぱり、こういう読書記録は付けておくべきだと痛感します。
あー頑張って続けよう。

…話の感想は下巻の折にでも。


2010/06/07

「ルームメイト」今邑 彩

こんにちは、そうるです。
お久しぶりです。読んでも書かない日が続いてましてご無沙汰です。

久しぶりに一気読みしました。
本を読んだ感想って、3日ぐらいしか覚えていられないリアルタイムなものだと思うので、しっかり書き残していきたいと思いつついつも坊主気味なのです。。。


「ルームメイト」@今邑彩


【あらすじ】(アマゾンより)
私は彼女の事を何も知らなかったのか…?大学へ通うために上京してきた春海は、京都からきた麗子と出逢う。お互いを干渉しない約束で始めた共同生活は快適だったが、麗子はやがて失踪、跡を追ううち、彼女の二重、三重生活を知る。彼女は名前、化粧、嗜好までも替えていた。茫然とする春海の前に既に死体となったルームメイトが…。

【ひとこと抜き出すなら】
わたしより、あの子の方が大切なのよ

【感想】
正直に言います。
多重人格モノがそうるは好きです。
一つの体の中に複数人が混在していて、強弱があってそれぞれの人格の人生がある。
それってどんな感覚なんだろう、ってとても思います。
一つの人格にとっては、普通の人生の長さと比べたらその人格が主導権を握っている
何分の一かしか(長さとしては)生きていないことになるけど、
それってしっかり一生分を生きてる感覚があるのだろうか、とか。

まあ、このお話の多重人格のトリックは最後の最後にドッキリさせるためのものなので
多くを書いてはいけないと思うのですが、
これまでに幾つか読んできた多重人格モノにはない、新しい一面を考えさせられた作品でした。

で、話を少し変えて。
恋をした時。
人は、自分より相手の方が大切だとさえ思うことができる。
その思いの強さが、度々恋愛を主軸とした物語で多く語られてきたと思うのですが。
多重人格者にとって、「自分の人格」と、「一つの肉体を分け合う他の人格者たち」は、同じ「自分」でもなければ、「他人」でもない。自分のエゴのためだけに犠牲にできる程「自分」でもなければ、無関心を装える「他人」でも無い。
でも、多重人格者の人格一つひとつだって恋をするし、全くの他人を好きになったりする。

そういう時に、多重人格者の「大切な人」ランキングはどういう風に番付けされるのだろう。

大切な人にランキングを付けることがどれだけナンセンスなことなのか、実生活でも作り話の中でも嫌という程思い知ってきたはずなのに、それでも恋をするとどんな人格の人でも、好きな人の1番でなければ我慢できなくなるらしいから。

「好きな人」のために「自分」をおざなりにすることができても、その自分と一つの肉体を分け合っている以上それは「別の人格の自分」をおざなりに扱うこととイコールになってしまう。


そうるは多重人格者じゃないし、想像するしかないから答えは出ないのだけれど。
人が一人じゃ寂しくて、耐えられなくて生みだしたのが別の人格であるなら、どうしたってやっぱり、他の人格は「自分」と同じくらい大切で、「自分」と同じくらいキライなんだろうと思う。