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2010/03/21

「赤い指」@東野圭吾

こんにちは。そうるです。
週末の更新が日課みたいになってきました。
本の感想なんて、読後いつまでも覚えていられるものじゃないので、こうして
記録したものを未来の自分が読んだら、おもしろいだろうなぁと思ったりしてます。

さて。

「赤い指」@東野圭吾


【あらすじ】(アマゾンより)
少女の遺体が住宅街で発見された。捜査上に浮かんだ平凡な家族。一体どんな悪夢が彼等を狂わせたのか。「この家には、隠されている真実がある。それはこの家の中で、彼等自身の手によって明かされなければならない」。刑事・加賀恭一郎の謎めいた言葉の意味は?家族のあり方を問う直木賞受賞後第一作。

【ひとこと抜き出すなら】
心の防波堤は壊れていた

【感想】
こんな家族いやだ。
読みながら、ずっと思っていました。
息子は引きこもり、妻は息子を怖がりつつも溺愛して大切なものを見失っている。そして主人公の夫は、その2人に強く出ることも、頼られることも認めてもらうこともない。さらに、そんな情けない主人公とともに暮らさなければならない祖母。

正当でまっとうで、「あるべき」姿から遠ざかってしまったいびつな家族。でも同時に、これに似た家族を築いてしまった人が、今の日本にはたくさんいるのではないかと思ったらゾっとしました。
大昔から、人間は当然のことのように結婚し、子供を産んで家族となり、社会を形成してきた。それは確かに簡単なことではないだろうし、誰もが自分の力の限りを尽くして取り組まなければならない事柄だと思うけれと、同時にそうしさえすれば(本気になりさえすれば)ほぼ多くの人が、多くの人の協力のもとに、なんとかこなすことができたことだ。

なのにどうして、今、こんなにもうまく家族を構築できない人が増えてしまったのだろう。
家族、っていう社会の最小構成単位がうまく出来上がっていなかったら、その上に立つ学校も職場も地域も、ひいては国も、うまくできあがるはずがない。

立派な学校に行かなくてもいい。高給取りにならなくてもいい。いじめのある学校に行ったっていい。わざわざ手を尽くして、社会の暗い部分を見ないで子供が育ってしまったら、大きくなって、それらを理解できない、視野の狭い子供になってしまうんじゃないだろうか。
ちゃんと、その子が生きている社会や自然の空気を、偏ることなく、ちゃんと平等に濃縮したところで育てたい。そしてその中から、自分は何が好きで、何を学び、将来何を糧にしたいのか。自身で取捨選択してほしい。

まあまだ子供なんて産んだことない、20代前半のそうるだけど、ふとそんなことを思った本です。


抜き出した一言は、主人公の夫が妻に負け、子供可愛さに明らかに歪んだことに手を染めようとしたとき。
まっとうな感情と理性を持っていればとうていできないようなことをしでかそうとした最後の瞬間に、
「できない」と膝を折る瞬間の描写です。

歪な社会を構築してしまったとしても、その社会は構成員の心の歪さが掛け合わさって歪みを増長させてしまっているだけであって、1人1人の精神がその歪さを背負いこめるわけはないのです。
多くの部分が真っ当な精神でつくられていた主人子は、歪な結末を受け入れることができなかった。

歪か、真っ当か。

究極の二択を迫られたときに、常に良心が命じる方を選べるように。
自分のポジティブな心が望む方を選べるように。
正しいと、胸を張れる結末を呼べるように。



頭がいい人より、優しい人より、笑顔が素敵な人より。
精神が健康で元気な人。

これから日本が求める人は、そういう人だと思うんだ。




- - - ⇒同じ作家の別の本

「天使の耳」
「ウインクで乾杯」
「さまよう刃」
「11文字の殺人」
「秘密」


2010/03/13

「ダブルファンタジー」@村山由佳

こんにちは。そうるです。
満を持して、最近一番泣いてしまった本の紹介です。

「ダブルファンタジー」@村山由佳



【あらすじ】(アマゾンより)
奈津・三十五歳、脚本家。尊敬する男に誘われ、家を飛び出す。“外の世界”に出て初めてわかった男の嘘、夫の支配欲、そして抑圧されていた自らの性欲の強さ―。もう後戻りはしない。女としてまだ間に合う間に、この先どれだけ身も心も燃やし尽くせる相手に出会えるだろう。何回、脳みそまで蕩けるセックスができるだろう。そのためなら―そのためだけにでも、誰を裏切ろうが、傷つけようがかまわない。「そのかわり、結果はすべて自分で引き受けてみせる」。

【一言抜き出すなら】
でかした!!

【感想】
泣きました。
セックスの描写は濃厚で、でも終始女性視点で、本人はどれだけの人と寝ようが全然悪いとは思っていなくて。
でも、夫を捨てて家を出奔するシーンで、主人公の奈津に感情移入して、泣きました。
もう夫への愛は冷めてて、情しか残ってなくて。でも夫で、自分のことを大切に思ってくれてて。
でも、愛が冷めて、女としても、脚本家としてもこの男と一緒にいたらだめだとしか思えなかったら、もう出ていくしかなくて。

どれだけでも奈津の方が悪くて、自分ばっかりで、夫に何かしらの裏切りの事実があるわけでもなんでもないのに、丁寧に描かれた奈津の心情にシンクロしてしまいました。
ちょっとでも自分の力で立とう、さらに上に行こう、って思ってる人。つまり全ての女の人は、奈津なんじゃないかと思う。
内助の功って言うけど、妻が夫を支えるっていうけど、そんなのは前時代的で、このご時世、2人とも立ちながらどれだけお互いに立ち支えられるかなんだから、女だって、「自分にはこの人じゃだめだ」って思ったら、自分の未来のためだけに出奔したくなって当然だと思う。
こういう風に夫を捨てたいわけじゃないけど、これくらいちゃんと、自分の未来を大切にして生きていきたいなぁって思う。

ついでに抜き出した「でかした!」って言うのは、
主人公の奈津が夫を捨てて家を飛びだして、その足で別の男(業界で名のある魅力的な男)と不倫したことを女友達に報告した時の、その女友達の反応。
けなすもんか、幻滅するものか、手を叩いて褒め称えなくてどうする。
だってそれは、奈津が「現状を失いたくない守り」ではなくて、「これからの自分のために最善だと思ったと」をちゃんと実行したってことなんだから。

余談ですが、【あらすじ】として紹介した文章も好きです。
「すべて自分で引き受けてみせる」って、どれだけ強い言葉だろう、って思う。

ここ最近のイチオシです。
あぁ、社会とか自立とかどろどろした恋愛に、感情移入できる年齢になってしまった。


天使の耳@東野圭吾

こんにちは。
お母さんから大量に借りた東野圭吾も、やっと最後の1冊です。
今回は珍しく短編集。
短編集って、どうしても緊張が1冊続かないからか苦手で、借りでもしないと読まないので
珍しい機会なんですが。

「天使の耳」@東野圭吾



【あらすじ】(アマゾンより)
天使の耳をもつ美少女が兄の死亡事故を解明。

深夜の交差点で衝突事故が発生。信号を無視したのはどちらの車か!?死んだドライバーの妹が同乗していたが、少女は目が不自由だった。しかし、彼女は交通警察官も経験したことがないような驚くべく方法で兄の正当性を証明した。日常起こりうる交通事故がもたらす人々の運命の急転を活写した連作ミステリー。

【一言抜き出すなら】
法律ほんの少し何かがズレるだけで、敵にも味方にもなる。彼女は自分の身を投げ出して、その分離帯を越えたのだ。

【感想】
東野圭吾はプロだ。
それが、この本を通して読んだ、私真っ先の感想でした。
こんなこと、誰だって今さらだよって思うと思うのですが。
小説を書くって、好きでしている人が何人もいると思うんです。
趣味とか、投稿の範囲まで数えたらそれこそびっくりするくらいの数の人が、自分だけの物語を創っていると思う。
でも、プロってそうやって、自分の物語を創れるだけじゃだめで。
どんな題材でもちゃんと物語れる。どんな題材でも、自分の中に情報を溜めて、咀嚼して、消化して、蒸留して、この角度だっていう物語の骨組みを組んで、その上に最初に溜めた情報を肉付けして創る。
好きなジャンルとか、好きな傾向に偏らず、どんな題材でもエンターテイメント性ある(つまり魅力のある)
作品に仕上げることができる東野圭吾は、プロだ、と思いました。

「白夜行」のような、押し殺した感情の行きつく徹底したシリアスも書ける。
「容疑者Xの献身」のような、大衆的なミステリーに人情を存分に加味したものも書ける。
「秘密」のような、非日常のSFの世界と、だからこそ個人の感情やウっ屈を存分に魅せるものも書ける。
そしてこの「天使の耳」は、短編6編を全て読者がとっても身近に感じる警察である、「交通警察」を題材にしてひと癖ふた癖あるストーリーに仕立て上げている。

プロだ。

1つ1つの作品は、正直「墓まで持っていきたい」ほど好きではないけれど、東野圭吾はまちかいなく、現代を代表する商業的プロの小説家だと思う。

「創作する分野でのプロ」ってものを、私は本当に尊敬する。



- - - ⇒同じ作家の別の本
「ウインクで乾杯」@東野圭吾
「さまよう刃」@東野圭吾
「11文字の殺人」@東野圭吾
「秘密」@東野圭吾

プリズム@貫井徳郎

こんにちは。そうるです。
さて、再びの貫井さんブームが来たようで、早速2冊目です。
今回は、「小説」という表現手法をとてつもなく魅力的に扱った作品だと思います。

こちら。

「プリズム」@貫井徳郎



【あらすじ】(アマゾンより)
小学校の女性教師が自宅で死体となって発見された。彼女の同僚が容疑者として浮かび上がり、事件は容易に解決を迎えるかと思われたが……。万華鏡の如く変化する事件の様相、幾重にも繰り返される推理の構築と崩壊。究極の推理ゲームの果てに広がる瞠目の地平とは?『慟哭』の作者が本格ミステリの極限に挑んで話題を呼んだ衝撃の問題作。

【一言抜き出すなら】
好きだった先生が殺された夜でも、ふだんと変わりなく眠くなるのが不思議だった。

【感想】
この本は、本当に推理「ゲーム」です。
推理することを楽しむ本。
推理することがメインすぎて、誰が犯人でもどうでもよくなってしまった本です。

主人公は、(一応)小学生の男の子。
担任の女の先生が死んでしまって、その事件の真相を確かめようとクラスメイトと探偵じみたことをするのですがそれはあくまで子供の好奇心の一部。個人的な怨恨や損得が絡んでいるわけではないから、子供たちは推理にのめりこみつつ、どこか事件に対しては冷めています。
それは、生死の概念が薄いことも相まって、時に酷薄な印象を与えます。
それが、抜き出した一文です。
愛していた人でも、殺したいほど憎んでいた人でもない、ただ「好きだった先生」が突然死んでしまって、「死」って理不尽なんだとはじめて実感した子供の、単純な夜。生死について考え込むことも、犯人を恨むこともない。

貫井さんの描く子供は、私の理想的な子供です。
社会に染まらず、自分の感情をすべての物差しとして動く子供。
それでいて、すべてにおいて諦めず、なんとかして希望の結果を表わそうと持てる全ての力を現実に費やす子供。

こんな風に生きられたら、と思います。
社会なんて、世間体なんて関係ないと。
私はこうしたいんだと、体を動かせるようになりたい。
自分に何ができてできないのか、できることを正確に把握し、その中で精いっぱいにもがきたい。


こどもでいたい。
誰だっけ、諦めるのが大人のすることだなんて、やけにかっこよくウンチクたれてたヤツ。




- - -⇒同じ作家の別の本
「失踪症候群」@貫井徳郎

失踪症候群@貫井徳郎

お久しぶりです。そうるです。
またしても既読書をためこんでしまいしまた…

さて最近読み終わったのがこちら。

「失踪症候群」@貫井徳郎




【あらすじ】(アマゾンより)
「真梨子が緊急入院したのよ、自殺未遂かもしれないって…」 原田は呼んでも一向に応えない娘に強く語りかけた。何でこんなことを…。ミステリファン待望の長篇・第3作。

【ひとこと抜き出すなら】
親からは逃げられても、自分の人生から逃げることできません。

【感想】
貫井さんを読んだのは久しぶりです。
以前にも私の中でブームが来ていた時期があって多く読んだのですが、どれもこれもヘビーな内容なので、すべての既刊本を読破する前に疲れてしまった覚えがあります。

鬱やドラッグや、世間や親や学歴や学校や。今の日本に生きていれば誰もが必ず持ってる社会との軋轢を、どうしても過重に感じ、溺れ、このままでは埒が明かなくなってしまった人が貫井さんの話には多く登場します。
そんな人たちに半ば同調しつつ、このようにはなりたくないとも思いつつ、けれど充分に感情移入してしまいつつ読むのが、私にとっての貫井さんです。

さて今回は、互いの戸籍を取りかえることで社会からの開放を図った20歳前後の若者たちと、別件の事件が絡んで不思議な話を作り出しています。
別件の事件は解決するのですが、多くの戸籍を取り替えてしまった人たちを目にして、主人公の警官は上記のような科白で締めくくります。

はっと、同世代の私としては身につまされる思いがした科白です。
家族や、学校や、塾なんてものはともすれば自分で選んだものではないかもしれない。親に与えられたものや、最初から身の周りにあったものかもしれない。それらからストレスを与えられ、自分が自分らしくいられないことは確かに理不尽と感じるだろうし、捨てたいとも思うだろう。
けどそうして捨てた後の(戸籍を取り替えた後の)人生は、今度こそ自分で引き受けるしかない。
どのような職に就こうと、どんな上司がいようと誰と結婚しようとどんな子供が生まれようと、それは自分が取捨選択して歩いてきた道で、思い通りにいかなかったからってまた簡単に「取り替える」わけになんていかない。

社会人1年目として、これまでのしがらみとか親とかほとんど関係なく、自分の力でなんとか自立ってもんをしていかないといけないんだとそろそろ実感して不安になったりもしているこのごろ。

「自分の人生からは逃げられない」という一言は、あまりに当然すぎる一言とはいえ、誰も私を肩代わりしたり、別の自分を差し出してくれたりするわけではないのだと思い知った次第です。

…だから、やれるだけのことをやらなきゃいけないんだよね。